ベトナムは中国と国境を接していて、ベトナム語を初めて聞くと中国語に似ていると感じることもありますよね。旅行や出張で現地に行くとき、「自分の中国語、少しは通じるかな」と期待する気持ちはよくわかります。
実は、ベトナムの公用語はベトナム語であり、一般のベトナム人に中国語はほぼ通じません。 ただし、ホーチミンの中華街(チョロン)や中国系企業が集まる工業団地など、一部のエリアでは中国語が実用言語として機能しています。
この記事では、ハノイ在住10年・ベトナム人の妻と毎日ベトナム語で暮らす筆者が、ベトナムで中国語がどこまで通じるのかを現地のリアルな肌感覚でお伝えします。
タイベオ先生ベトナム旅行や出張で中国語が使えるか気になっている方、ベトナム語と中国語の関係に興味がある方の参考にしていただければ嬉しいです。
- ベトナムで中国語が「通じる場所」と「通じない場所」の具体的な境界線
- ベトナム語と中国語が「似ている」と言われる理由と、実際に通じない理由
- ベトナムの若者に中国語ブームが起きている背景
- 旅行で中国語より先に覚えておきたいベトナム語フレーズ
ベトナムで中国語は通じる?→ 基本的に通じません

結論から言うと、ベトナムで中国語は基本的に通じません。ベトナムの公用語はベトナム語で、中国語は「知らない外国語」という扱いです。ただし、例外的に通じる場所も確かに存在します。
公用語はベトナム語|中国語は「外国語」扱い
私は以前に中国語を勉強していた時期があり、ハノイに10年住んでいますが、日常生活で中国語が通じた経験は一度もありません。
ベトナムの人口の約87%を占めるキン族(京族)にとって、中国語は勉強しなければわからない外国語です。ハノイの食堂で中国語で注文しても、タクシーで行き先を中国語で伝えても、反応が返ってくることはまずありません。
「でも、ベトナム語って中国語に似ているって聞いたけど?」と思う方もいますよね。たしかに、遠くからベトナム語を聞くと中国語っぽく聞こえることがあります。どちらも音の上げ下げ(声調)で意味が変わる言語なので、雰囲気は似ています。でも、それは日本語と韓国語が「なんとなく似て聞こえる」のと同じで、実際の会話が成立するかどうかはまったく別の話です。
ベトナム語と中国語は全く別物です。
タイベオ先生ハノイの街中で中国語を話している人を見かけるのは、中国人の観光客くらいです。ベトナム人同士の会話に中国語が混ざることは、まずありません。
それでも中国語が通じる3つの場所
では、ベトナムのどこでも中国語が通じないかというと、そうでもありません。以下の4つのエリアでは、中国語が実用言語として機能しています。
| エリア | 通じる中国語 | なぜ通じるのか |
|---|---|---|
| ホーチミンの中華街(チョロン) | 広東語が主流。若い世代は北京語も | 清代から続く華僑コミュニティが現存 |
| 北部の工業団地(バクニン・バクザンなど) | 北京語(普通話) | 中国系の製造企業が集中進出 |
| 主要観光都市(ダナン・ニャチャンなど) | 北京語(普通話) | 中国人観光客向けのサービス需要 |
| 中国国境沿いのホア族エリア(ランソンなど) | 北京語・地域の方言 | ホア族(中国系ベトナム人)の集住地域 |
ポイントは、通じる理由がエリアごとにまったく違うということです。チョロンは「歴史的に中国語が残っている場所」、工業団地は「中国企業の進出で新しく広まった場所」、観光都市は「中国人観光客へのサービスとして必要な場所」です。そして国境沿いのホア族エリアは、「中国系住民が代々暮らし続けている場所」です。
ひとつ注意しておきたいのが、チョロンで主流なのは北京語(普通話)ではなく「広東語」だという点です。北京語しか話せない場合、チョロンの年配の方とのやり取りは難しいことがあります。ただし、20〜40代の若い世代は学校やメディアを通じて普通話も学んでいるので、北京語で話しかければ対応してくれることが多いです。
国境沿いのランソン省については、以前現地を訪れたときにホア族の家族と中国語で会話できた経験があります。特に年配の方は中国語が自然と出てきて、ハノイの日常生活圏とはまったく違う言語環境だと感じました。ただし、あくまでホア族が多く住む地区の話で、町全体で中国語が通じるわけではありません。
ベトナム語と中国語は似ている?|「音の雰囲気」と「通じる」は別物

「ベトナム語は中国語に似ている」という話を聞いたことがある方は多いと思います。これは半分正しくて、半分間違いです。言語としての共通点は確かにあるのですが、それが「会話が通じる」こととは直結しません。
声調が6つ vs 4つ|似て聞こえるけど全く違う
ベトナム語と中国語が似ていると感じる最大の理由は、どちらも「声調言語」だからです。音の上げ下げで意味が変わるという仕組みが共通しているので、遠くから聞いたときの雰囲気が似ています。
ただし、中国語(普通話)の声調が4つなのに対して、ベトナム語は6つ。音の種類がまったく違います。中国語の耳でベトナム語を聞いても、何を言っているかは全くわかりませんし、その逆も同じです。
私自身、ベトナム語を毎日使って暮らしていますが、中国語を聞いても1ミリも理解できません。「似て聞こえる」のと「意味がわかる」のは、まったくの別物です。
漢越語のおかげで「単語は似ている」のは本当
一方で、単語レベルでの共通点は驚くほど多いです。
実はベトナム語の語彙の約60〜70%は、中国語に由来する「漢越語(Hán-Việt)」と呼ばれるものです。
ベトナムが1000年以上にわたって中国の支配を受けた歴史の中で、中国語の語彙がベトナム語に深く入り込みました。日本語の「音読み」が漢語由来であるのと同じ仕組みです。
たとえば、こんな対応があります。
| 日本語 | ベトナム語(漢越語) | 中国語(普通話) |
|---|---|---|
| 経済 | Kinh tế | Jīngjì |
| 文化 | Văn hóa | Wénhuà |
| 注意 | Chú ý | Zhùyì |
| 態度 | Thái độ | Tàidù |
| 大学 | Đại học | Dàxué |
| 感恩(ありがとう) | Cảm ơn | Gǎn’ēn |
声に出してみると「たしかに似てる!」と感じるはずです。漢字の知識がある日本人にとっては、ベトナム語の語彙を覚えるときに大きなアドバンテージになります。
→ 漢越語をもっと詳しく知りたい方はこちら

漢字で筆談は通じる?→ 通じません
「語彙が似ているなら、漢字を紙に書いて見せれば筆談できるんじゃない?」
これは中国語ができる方が真っ先に思いつくアイデアですが、残念ながら現代のベトナム人には通じません。
ベトナムでは1954年に漢字の使用が正式に廃止されました。それ以降、すべての教育はアルファベット(クオック・グー=国語の字)で行われています。今のベトナム人にとって漢字は「外国の文字」であり、日本人がアラビア文字を見せられるのと同じ感覚です。
語彙の「音」は共有されていますが、「文字」は完全に別物に置き換わっている。これが「似ているようで似ていない」の正体です。
ベトナムで中国語話者とコミュニケーションを取りたいなら、漢字の筆談よりもスマホの翻訳アプリ(Google翻訳など)の方がはるかに確実です。 画面を見せ合えば、相手はベトナム語のアルファベットで表示されるのですぐに理解できます。
今ベトナムで中国語を学ぶ若者が急増している理由
「基本的に通じない」と書きましたが、ベトナムの言語環境は今まさに変わりつつあります。中国系企業のベトナム進出に伴い、中国語を学ぶ若者が急増しています。
中国語ができると給料が2〜3倍になる現実
ベトナムで中国語ブームが起きている理由は、とてもシンプルです。中国語ができると給料が跳ね上がるからです。
ベトナム人の平均月収は約700〜800万ドン(約4〜5万円)ですが、バクニン省やバクザン省に集中する中国系工場では、中国語が流暢なスタッフの月収が1,500万〜3,000万ドン(約9〜18万円)に達します。「会計+中国語」「技術+中国語」のように専門スキルと掛け合わせた人材になると、月収5,000万ドン(約30万円)を超えるポジションもあります。
大学側もこの流れに応じていて、名門校の中国語学科の就職率は軒並み90〜100%。ベトナムの受験制度では、HSK(中国語能力試験)3級以上を持っていると高校卒業試験の外国語が満点免除になる特例もあり、「英語より中国語の方が受験に有利」という状況すら生まれています。
タイベオ先生最近は日本語ではなく中国語を学んでいる大学生に会う機会が圧倒的に多くなっているように感じます。
TikTokとSNSが加速させる学習ブーム
教育や就職市場だけでなく、SNSも中国語ブームのエンジンになっています。
TikTokベトナムで「#hoctiengtrung(中国語を学ぶ)」の累計視聴回数は54億回以上。中国ドラマの名セリフを使った表現紹介や、中国のインフルエンサーのトレンドを真似た動画が人気で、エンタメとして楽しみながら中国語を覚える流れができあがっています。
Facebookにも数十万人規模の中国語学習グループがいくつも存在していて、教材の共有や就職情報の交換が活発に行われています。
ベトナム人にとっての中国語は、もはや教養ではなく「キャリアを上げるための実用ツール」です。今すぐベトナム全土で中国語が通じるわけではありませんが、通じる場面は年々増えています。
ベトナム旅行で本当に使える言語は?|中国語より先に覚えたいフレーズ
ここまで読んで「じゃあ結局、ベトナムに行くときは何語を準備すればいいの?」と思いますよね。旅行者・出張者の方に向けて、現地で実際に役立つ言語の優先順位をお伝えします。
観光地では英語が最も通じる
旅行や短期出張であれば、ベトナムで最も通じる外国語は英語です。
ハノイ・ホーチミン・ダナンなどの主要都市では、ホテル、空港、観光スポットのスタッフはほぼ英語で対応してくれます。特に若い世代は学校で英語を学んでいるので、カフェやコンビニでも簡単な英語なら通じることが多いです。
一方、中国語が通じるのは先ほど紹介したエリア(チョロン・工業団地・一部の観光ホテルなど)に限られます。旅行全体を通して頼れる言語としては、英語の方が圧倒的に守備範囲が広いです。
ただし、ローカルな食堂や市場、地方の町では英語もほぼ通じません。そういう場面で威力を発揮するのが、次に紹介するベトナム語のひとことです。
注意点:ベトナム人の話す英語は、ベトナム語の発音の影響でクセが強すぎてめちゃくちゃ聞き取りにくいです。
ベトナム語のひとことで現地の人の反応が変わる
10年暮らしてきて断言できますが、ベトナムでは外国人がベトナム語を少しでも話すと、現地の人の反応がまったく変わります。
たった2つのフレーズだけでも十分です。
- 「Xin chào(シンチャオ)」= こんにちは
- 「Cảm ơn(カムオン)」= ありがとう
この2つを言うだけで、最初はぶっきらぼうだった店員の態度がコロッと軟化し、まるでお客さんではなく家族を迎え入れるような温かい接客に変わります。ベトナム人は、外国人が自分たちの言葉を使ってくれることをとても喜びます。
中国語のスキルをお持ちの方にとっても、ベトナム語のフレーズを2〜3個覚えていくだけで現地での体験が格段によくなります。中国語は「通じたら儲け物」くらいに構えて、まずはベトナム語の挨拶から入るのがおすすめです。
ベトナム語の簡単なフレーズをすぐに知りたい方は以下の記事をご覧ください。


ベトナムと中国語に関するよくある質問
まとめ|ベトナムで中国語は「基本通じない」が正解
この記事のポイントをおさらいします。
- 一般のベトナム人に中国語は通じません。 ベトナムの公用語はベトナム語です
- 通じる場所は3つ。 チョロン(中華街)、北部の中国系工業団地、主要観光都市のホテル
- ベトナム語と中国語は「似て聞こえる」けど会話は成立しません。 漢字での筆談も通じません
- ベトナムの若者に中国語ブームが来ています。 給与・教育・SNSが三位一体で後押ししています
- 旅行では英語の方が圧倒的に便利です。 さらにベトナム語を2〜3フレーズ覚えていくと、現地の人との距離がぐっと縮まります
中国語のスキルをお持ちの方がベトナムを訪れるなら、中国語は「通じたら儲け物」くらいに構えつつ、ベトナム語の挨拶をいくつか覚えていくのが一番おすすめです。
まずは「ありがとう(Cảm ơn)」と「こんにちは(Xin chào)」から始めてみてください。







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