
ベトナム語って発音が難しそう…文法もややこしいのでは?

日本語とどれくらい違うんだろう?似ているところはある?
そんなふうに感じている方に向けて、この記事では日本語話者の視点から見たベトナム語文法の特徴をわかりやすく、でも要点を押さえて解説します。
ベトナム語には、動詞や名詞の活用がなく、語順も比較的シンプルという特徴があります。
一方で、声調の使い分けや人称代名詞の多さ、助詞の代わりとなる語順や補助語など、独特なルールも少なくありません。

この記事では、ベトナム語文法の全体像を、構造的な特徴に沿って整理しながら紹介します。
これから学び始める方や、学習中で一度体系的に理解し直したい方にも役立つ内容です。
ベトナム語の文法にはこんな特徴がある
ベトナム語は、語形変化がほとんどなく、語順や補助的な語で意味を表す言語です。
このような言語は「孤立語(isolating language)」と呼ばれ、英語や日本語のように動詞や名詞の形が変わることがありません。
また、語順が非常に重視されること、1語が基本的に1音節で構成されていること、声調によって意味が変わることなども、ベトナム語ならではの特徴です。
このセクションでは、そうした構造的な特徴を3つに分けて見ていきます。
語形変化のない「孤立語」
ベトナム語では、動詞・名詞・形容詞などの語は、文中で形が変わりません。
たとえば「行く」は đi ですが、誰が行っても、いつ行っても、この語形は変化しません。
代わりに、語順や時制マーカー(たとえば đã「すでに」、sẽ「これから」など)を使って文の意味を補います。
これは「孤立語」と呼ばれる言語の典型的な特徴で、文法的な関係を語の変化ではなく、語の並びと補助語で示すという構造です。
語順が意味を決める
語順は「主語 → 動詞 → 目的語(SVO)」が基本です。英語と同じ順番で、ベトナム語の文の骨組みはこの語順に強く依存しています。
例:
Tôi ăn cơm.(私はご飯を食べる)
→ Tôi(私) + ăn(食べる) + cơm(ご飯)
日本語のように語順の入れ替えで意味を柔軟に変えることはできないため、語の順番を間違えると意味が通らなくなることがあります。
1音節語が基本、声調で意味を区別
ベトナム語の単語は、1音節で1語・1意味を持つものが多く、語のまとまりが非常にコンパクトです。
そのため、文を構成する語の順番や使い方の重要性がより高くなります。
加えて、ベトナム語は声調言語でもあり、同じつづりでも声調が違えばまったく意味が異なります。
例:
“ma” の声調を変えると:
- ma (幽霊):平らな声調
- mà(接続詞):下がる声調
- má(頬 / お母さん=南部表現):上がる声調
- mả(墓):尋ねる声調
- mã(記号):倒れる声調
- mạ(苗):重い声調
文法というより音韻の特徴ではありますが、意味を伝えるために発音が不可欠な要素であるという点では、構造の一部として理解しておく必要があります。
ベトナム語の文字の記号について詳しくは以下の記事で説明しています。

このように、ベトナム語は「語の形を変えることなく、語の順序と補助語で文を組み立てる」言語です。
次に、具体的な表現方法――時制、否定、疑問の作り方についてご紹介します。
ベトナム語の時制・否定・疑問の表現方法
ベトナム語の文法では、動詞の形を変えずに時制や文の意味を表現します。
このセクションでは、日常会話や文章でよく使われる「時制」「否定」「疑問」の基本的な表現パターンを紹介します。
動詞の形は変わらず、前に置く語で時制を示す
ベトナム語では、動詞そのものは過去・現在・未来で形が変わることはありません。
時制は、動詞の前に時制マーカーと呼ばれる語を置いて表現します。
主なマーカーは次の通りです:
マーカー | 意味 | 例文 |
---|---|---|
đã | 過去 | Tôi đã đi.(私は行った) |
đang | 進行 | Tôi đang ăn.(私は食べている) |
sắp | 近未来 | Tôi sắp đi. (私はもうすぐ行く) |
sẽ | 未来 | Tôi sẽ học.(私は勉強する) |
vừa | 近過去 | Tôi vừa về.(私は今帰ったところ) |
文脈によってはマーカーが省略されることもありますが、基本は「動詞の前に置く」と覚えておけば問題ありません。
否定は「không」を使って表す
否定文を作るときは、動詞の前に không(〜ない)を置くだけで成立します。
構造はシンプルで、どの動詞にも同じ形で使うことができます。
例:
- Tôi không biết.(私は知らない)
- Chúng tôi không đi.(私たちは行かない)
- Anh ấy không ăn cơm.(彼はご飯を食べない)
không は時制マーカーとも併用できます:
- Tôi đã không đi.(私は行かなかった)
- Tôi sẽ không nói.(私は言わないつもり)
Yes / No 疑問文は「có … không?」の形
ベトナム語では、「はい」「いいえ」で答えられる疑問文を作るとき、có … không? という構文を使います。
これは「〜する?/〜ですか?」という意味になります。
構造:
[主語] + có + [動詞] + không?
例:
- Bạn có khỏe không?(元気ですか?)
- Anh có đi làm hôm nay không?(今日は出勤しますか?)
- Em có hiểu bài không?(授業はわかりましたか?)
có は肯定の「ある/いる」にもなりますが、疑問構文では助詞的に使われています。
疑問詞を使った疑問文の語順
「誰」「何」「どこ」など、疑問詞を使った文もあります。語順は基本的に肯定文と同じですが、疑問詞が必要な場所に入るのがポイントです。
主な疑問詞と使い方の例:
疑問詞 | 意味 | 例文 |
---|---|---|
ai | 誰 | Ai đến vậy?(誰が来たの?) |
gì | 何 | Bạn đang làm gì?(何してるの?) |
ở đâu | どこで | Em sống ở đâu?(どこに住んでいますか?) |
khi nào | いつ | Khi nào anh đi?(いつ行くの?) |
tại sao | なぜ | Tại sao em khóc?(なぜ泣いてるの?) |
疑問詞が文頭に来ることもあれば、動詞や目的語の位置にそのまま入る場合もあります。
ベトナム語では、動詞は一切変化せず、補助的な語や語順によって文の意味を作っていきます。
ここまで紹介した時制・否定・疑問の形は、どれも基本構造が決まっているため、使い慣れれば安定して応用しやすくなります。
ベトナム語の名詞や代名詞の文法的な特徴
ベトナム語では、名詞や代名詞にも独自のルールや表現の工夫があります。
とくに日本語話者にとっては、「私」「あなた」に相当する言葉が複数ある点や、名詞に類別詞(助数詞のような語)が付く点が特徴的です。
このセクションでは、人称代名詞と類別詞を中心に、名詞周辺の文法的なしくみを紹介します。
人称代名詞は年齢や関係性で変わる
ベトナム語の人称代名詞は、単に「私」「あなた」と訳すだけでは対応できません。
相手との関係性、年齢、性別、社会的な立場などによって、使用する人称代名詞が変わるためです。
たとえば、「私」と訳される語だけでも以下のような違いがあります。
代名詞 | 意味・使い方 |
---|---|
tôi | 一般的な「私」(丁寧・標準) |
em | 年下の「私」、年上に対して使用 |
anh / chị | 年下に対して自分を表すとき |
con | 目上の人に対する「私」(子ども、孫など) |
同様に、「あなた」に相当する語も、相手によって選びます。
代名詞 | 意味・使い方 |
---|---|
bạn | フラットな「あなた」 |
anh / chị | 年上の男性 / 女性に対する呼びかけ |
em | 年下の相手に対する「あなた」 |
ông / bà | 高齢者への敬称的な「あなた」 |
例:
Em chào anh.(年下の私が、年上の男性に「こんにちは」とあいさつ)
Con cảm ơn bà.(孫が祖母に「ありがとう」と言う)
このように、人称代名詞は単なる代名詞ではなく、関係性を言語に直接反映する仕組みとして機能しています。
ベトナム語における人称代名詞の使い分けの方法については以下の記事で詳しく説明しています。

名詞には類別詞(助数詞のような語)が付く
ベトナム語では、名詞の前に「類別詞」と呼ばれる語を付けて表現することがあります。
これは、日本語の「一枚の紙」「三匹の犬」といった助数詞のような役割に近いものです。
代表的な類別詞と使われる名詞の例:
類別詞 | 用途 | 例文 |
---|---|---|
cái | 一般的な物体(無生物) | cái bàn(机) |
con | 生物や動くもの | con chó(犬) |
quyển / cuốn | 本・ノートなど冊子状の物 | quyển sách(本) |
chiếc | 乗り物や道具など | chiếc xe(車) |
類別詞は必須ではありませんが、数量詞(một, hai など)や指示詞(này, kia)と一緒に使うときは基本的に必要になります。
例:
- một cái bàn(机1つ)
- quyển sách này(この本)
また、類別詞を使うことで文の意味が丁寧になったり、語感に柔らかさが加わる場合もあります。
ベトナム語の名詞まわりには、「関係性を示す代名詞」と「名詞を分類する類別詞」という二つの大きな特徴があります。
どちらも会話で非常によく使われるため、語彙の学習と並行して覚えておくと、表現の幅が広がります。
次に、ベトナム語の“らしさ”を形作っている表現上の特徴──声調・省略・語尾の助詞などについて見ていきます。
ベトナム語ならではの表現的特徴
ベトナム語には、文法構造に加えて、会話や文章の印象を大きく左右する独自の表現スタイルがあります。
このセクションでは、声調・主語や目的語の省略・文末助詞の使い方という3つのポイントに焦点を当てて、ベトナム語らしい言語感覚を紹介します。
声調が意味の違いを生み出す
ベトナム語は「声調言語」であり、同じつづりの語でも声調の違いで意味がまったく異なります。
標準的な北部方言(ハノイなど)では、6種類(南部では5種類)の声調が存在します。
たとえば、”ma” という音に声調をつけるだけで、以下のように意味が変わります:
- ma(幽霊)
- má(頬・お母さん)
- mà(〜なのに)
- mã(記号)
- mả(墓)
- mạ(苗)
このように、語彙を覚えるときはつづりと一緒に正確な声調もセットで覚える必要があります。
文法そのものではありませんが、言葉の意味に直結する要素として、非常に重要です。

このベトナム語の声調の複雑さが鬼門になります …

主語や目的語が省略されることが多い
ベトナム語では、文の主語や目的語が省略されることがよくあります。
たとえば、
- Đi đâu?(どこ行く?)
- Không biết.(知らない)
のように、「誰が行くのか」「誰が知らないのか」をはっきり言わなくても、会話の流れや文脈から相手に伝わることが多く、あえて明示しないことが自然とされています。
pro-drop は特に口語表現で顕著に見られ、会話を簡潔かつ柔らかい印象にする要素にもなっています。
文末助詞で語調や気持ちを調整する
ベトナム語では、文の最後に文末助詞をつけることで、話し手の気持ちや語調をやわらげたり強調したりします。
よく使われる文末助詞の例:
助詞 | 意味・使い方 |
---|---|
nhé / nha | やわらかい依頼や確認(〜ね) |
ạ | 丁寧な語調、目上の人に対する敬意 |
đó / đấy | 強調、断定的な語調 |
à | 疑問や確認(〜なの?) |
例文:
- Đợi em một chút nhé.(ちょっと待っててね)
- Con chào ông ạ.(おじいちゃん、こんにちは)
- Đúng rồi đấy.(そのとおりだよ)
- Em đang học à?(勉強してるの?)
文末助詞は、文法上必須ではありませんが、話し方の自然さや印象を大きく左右する要素です。
適切に使えるようになると、より柔軟で自然な表現が可能になります。

ネイティブの言い方を聞いているうちに自然に覚えられますよ
ベトナム語文法の特徴まとめ
ここまで紹介してきたとおり、ベトナム語の文法には、他の言語とは異なるいくつかの明確な特徴があります。

最後に、重要なポイントを項目ごとに整理しておきます。
分類 | 特徴 |
---|---|
文法の構造 | 孤立語(語形変化がない)で、語順と補助語によって意味を表す |
語順 | 主語 → 動詞 → 目的語(SVO)。語順の乱れは意味に影響 |
時制 | đã(過去)、sẽ(未来)などの時制マーカーを動詞の前に置く |
否定・疑問 | không を使った否定、có … không? や疑問詞による疑問文 |
人称代名詞 | 年齢や関係性によって「私」「あなた」が変化する |
類別詞 | 名詞の前に分類語(cái, con など)を置く文法要素 |
声調 | 同じつづりでも声調が違えば意味が異なる(6声調) |
省略 | pro-drop 言語であり、主語や目的語が省略されることが多い |
文末助詞 | nhé, ạ, đó などを使って語調やニュアンスを調整する |
ベトナム語は、形が変わらないシンプルな構造を持ちながら、語順・発音・代名詞の使い分けといった独自の要素によって、表現の精度やニュアンスを豊かにしています。
この基本構造を押さえておくことで、今後の学習や会話表現にも役立つ土台が築けます。

ただ、動詞が変化しない、名詞に性がないという意味では、文法は他の外国語に比べて「簡単」かもしれませんが、日本語と修飾の語順が完全に逆になるので、私は個人的に複雑に感じます。
文法や語彙の働きについてじっくり勉強したい方には以下のテキストと辞書がおすすめです。
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