
ベトナム人の名前って、グエンさんばかりな気がする。男女で違いもあるの? 名前のどの部分を呼べばいいのかも分からない
日本の学校や会社では、「田中さん」「佐藤さん」のように、苗字で呼び合うのが一般的です。でもベトナムでは、初対面でも、ビジネスの場でも、基本は姓ではなく下の名前で呼び合います。
日本の感覚だと、いきなり名前で呼んでいいのか、少し戸惑いますよね。
この記事では、
- ベトナム人の名前の仕組み
- グエンさんが多い理由
- 男女の名前の違いと意味
をまとめます。同じ名前の人が多い現場での呼び分け方も、私の実体験から紹介します。
タイベオ先生ベトナム人の知り合いがいる方は、その人の名前も思い浮かべながら読んでみてくださいね。
ベトナム人の名前の仕組みと、呼ぶのはどの部分か
ベトナム人の名前は、基本は「姓+ミドルネーム+名」の順に並びます。ミドルネームがない人もいて、民族や家庭によっても形は異なります。
説明用の例として、次の名前を見てみましょう。

Nguyễn Văn An
Nguyễnが姓、Vănがミドルネーム、Anが名です。
呼びかけには、姓ではなく名を使います。
日本語で呼ぶなら「アンさん」、英語なら「Mr. An」という具合です。ベトナム語では、相手との関係に合う呼称を名の前に添えます。
たとえば相手が年上の男性なら、こうなります。
Anh An
アィン アン
anhは年上の男性への呼称で、女性ならchịなどを使います。呼称を添えるので、名前呼びは親しい者同士の呼び捨てという意味ではありません。

実在の名前では、サッカー選手のNguyễn Văn Toànも同じ基本形です。Nguyễnが姓、Vănがミドルネーム、Toànが名なので、名で呼ぶなら「トアンさん」に当たります。
また、ベトナムでは夫婦別姓が一般的で、結婚してもそれぞれの姓を使います。子どもは父親の姓を継ぐことが多いため、同じ家族でも母親と子どもで姓が違うことがあります。
ベトナム人にグエンさんが多い理由と、多い姓のランキング
ベトナム人といえば、「グエンさん」を思い浮かべる方もいるかもしれません。コンビニなどで、店員さんの名札に「グエン」と書かれているのを見かけたことはありませんか。
【Nguyễn=グエン】はベトナムで最も多い姓で、文献データでは38.4%を占めています。なんと国民の約5人に2人近くがグエンさんという計算です。
グエン以外にはどんな姓が多い?
現在、ベトナム人の名前はアルファベットで書きますが、実は漢字由来の言葉が多く使われています。日本語に音読みがあるように、ベトナム語にも漢字の読み方があり、それが漢越音です。
文献で紹介される、多い姓の上位10位と割合は次のとおりです。(Lê Trung Hoaの書籍を紹介するVTC News(2023年11月)のデータに基づきます。)
| 順位 | 姓 | 読みの目安 | 漢字 | 割合 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Nguyễn | グエン | 阮 | 38.4% |
| 2 | Trần | チャン/トラン | 陳 | 12.1% |
| 3 | Lê | レー | 黎 | 9.5% |
| 4 | Phạm | ファム | 范 | 7.0% |
| 5 | Hoàng/Huỳnh | ホアン/フイン | 黃(黄) | 5.1% |
| 6 | Phan | ファン | 潘 | 4.5% |
| 7 | Vũ/Võ | ヴー/ヴォー | 武 | 3.9% |
| 8 | Đặng | ダン | 鄧 | 2.1% |
| 9 | Bùi | ブイ | 裴 | 2.0% |
| 10 | Đỗ | ドー | 杜 | 1.4% |
ベトナム人の姓は上位10姓を合わせると86.0%。グエン以外も、特定の姓にかなり集中しています。
これは過去の文献に基づく構成比で、現在の全国人口を直接集計した最新の公式統計ではありませんが、だいたいこんなものと思っていただいて大丈夫です。
HoàngとHuỳnhはどちらも「黃」、VũとVõはどちらも「武」に対応します。この表では、それぞれを一組にして数えています。つづりが違っても、漢字を見るとつながりが見える姓です。
王朝が替わると、姓も変わった
グエンさんが多い背景には、実は王朝交代に伴う改姓という歴史が関係しています。
1225年、李朝から陳朝へ王朝が替わりました。陳朝の祖先にはTrần Lýという人物がいて、その名にある「李」の字を避けるため、1232年に李(Lý)姓を阮(Nguyễn)姓へ改めたと、ベトナム外務省系の歴史解説に記されています。
王や祖先の名前と同じ字を避けることを「避諱(ひき)」といいます。『大越史記全書』には、李朝への思慕を断つ意図も記され、名前のタブーと政治的な事情が結び付いていたことがうかがえます。
その後も、敗れた側の一族が災難を避けて改姓したり、王から姓を賜ったりした例があります。
ちなみに、ベトナム最後の王朝も阮朝(1802〜1945年)です。フエの王宮で知られるこの王朝の姓もNguyễnですが、李姓から阮姓への改姓の話は、それより何世紀も前にさかのぼります。
同じNguyễn姓でも、全員が同じ血筋というわけではありません。
男性・女性にはどんな名前がある?ベトナム人の名前の意味と違い
伝統的には、ベトナムの男性の名には能力や強さ、女性の名には花や美しさに結びつく言葉が多く使われます。
漢字と意味を見比べると、名前のイメージもつかみやすくなります。
一語の名に加え、Tuấn AnhやLan Anhのように二語を組み合わせた名前も載せています。
以下は人気順ではなく、男女それぞれによく見られる名前と、両方に使われる名前の例です。男女の区分は傾向で、異性に使われることもあります。
男性によく見られる名前
| 名 | 北部の読み | 南部の読み | 対応する漢字の例 | 意味 |
|---|---|---|---|---|
| Tuấn | トゥアン | トゥアン | 俊 | 才に優れる |
| Dũng | ズン | ユン | 勇 | 勇気、勇敢さ |
| Trí | チー | チー | 智 | 知恵、賢さ |
| Hùng | フン | フン | 雄 | 雄々しさ、力強さ |
| Đức | ドゥック | ドゥック | 德(徳) | 徳、品性 |
| Huy | フイ | ウイ | 輝 | 輝き |
| Khang | カン | カン | 康 | 健やかさ、安らかさ |
| Kiên | キエン | キエン | 堅 | 堅さ、揺るがなさ |
| Thành | タイン | タン | 成 | 成し遂げること |
| Trung | チュン | チュン | 忠 | 忠実さ、誠実さ |
| Tuấn Anh | トゥアン・アイン | トゥアン・アン | 俊英 | 才に秀でた人 |
| Anh Tuấn | アイン・トゥアン | アン・トゥアン | 英俊 | 優れた才能 |
| Đức Anh | ドゥック・アイン | ドゥック・アン | 德英(徳英) | 徳・品性と優れた才能 |
| Minh Đức | ミン・ドゥック | ミン・ドゥック | 明德(明徳) | 明るさ・聡明さと徳 |
| Quang Huy | クアン・フイ | ワン・ウイ | 光輝 | 光り輝くこと |
| Gia Huy | ザー・フイ | ヤー・ウイ | 家輝 | 家族と輝き |
| Đức Huy | ドゥック・フイ | ドゥック・ウイ | 德輝(徳輝) | 徳・品性と輝き |
| Quốc Anh | クオック・アイン | ウオック・アン | 國英(国英) | 国と優れた才能 |
女性によく見られる名前
| 名 | 北部の読み | 南部の読み | 対応する漢字の例 | 意味 |
|---|---|---|---|---|
| Hoa | ホア | ワー | 花 | 花 |
| Mai | マイ | マイ | 梅 | 花、木の名 |
| Lan | ラン | ラン | 蘭 | ランの花 |
| Hương | フオン | フオン | 香 | 香り |
| Ngọc | ゴック | ゴック | 玉 | 宝玉、美しい石 |
| Thảo | タオ | タオ | 草 | 草、草木 |
| Vân | ヴァン | ヴァン/ヤン | 雲 | 雲 |
| Trang | チャン | チャン | 莊(荘) | 端正さ、慎み深さ |
| Dung | ズン | ユン | 容 | 容貌、寛容さ |
| Trúc | チュック | チュック | 竹 | 竹 |
| Lan Anh | ラン・アイン | ラン・アン | 蘭英 | ランの花と優れた才能 |
| Phương Thảo | フオン・タオ | フオン・タオ | 芳草 | 香りのよい草 |
| Khánh Linh | カイン・リン | カン・リン | 慶靈(慶霊) | 喜び・祝いと聡敏さ |
| Minh Anh | ミン・アイン | ミン・アン | 明英 | 明るさ・聡明さと優れた才能 |
| Kim Ngân | キム・ガン | キム・ガン | 金銀 | 金と銀 |
| Thu Hà | トゥー・ハー | トゥー・ハー | 秋河 | 秋の川 |
| Thủy Tiên | トゥイ・ティエン | トゥイ・ティエン | 水仙 | スイセンの花 |
| Ngọc Lan | ゴック・ラン | ゴック・ラン | 玉蘭 | 宝玉とランの花 |
男女どちらにも使われる名前
| 名 | 北部の読み | 南部の読み | 対応する漢字の例 | 意味 |
|---|---|---|---|---|
| Anh | アイン | アン | 英 | 優れる、優れた人物 |
| Minh | ミン | ミン | 明 | 明るい、聡明さ |
| Linh | リン | リン | 靈(霊) | 聡敏さ、霊妙さ |
| Thanh | タイン | タン | 清/青 | 清らかさ/青さ |
| An | アン | アン | 安 | 安らぎ、平穏 |
| Bình | ビン | ビン | 平 | 平ら、穏やか |
| Phương | フオン | フオン | 方/芳 | 方向/芳しい香り |
| Tâm | タム | タム | 心 | 心、気持ち |
| Ngọc Anh | ゴック・アイン | ゴック・アン | 玉英 | 宝玉と優れた才能 |
| Hoàng Anh | ホアン・アイン | ワン・アン | 煌英 | 輝きと優れた才能 |
「男女どちらにも」は、男女で同じくらいの人数に使われるという意味ではありません。たとえば、ホーチミン市周辺の若い世代を集計した資料では、Linhは女性に多く、Tâmは男女の人数が比較的近い名でした。
Dũngは「勇」、Dungは「容」に対応する名の例です。声調が違うので、符号を外してどちらもDungと書くと、別の名が同じつづりに見えてしまいます。
名のAnhは、年上の男性への呼称anhとは別の言葉です。
二語の名では、Đức Hạnhは男性に、Thúy Hạnhは女性に結び付く組み合わせの例です。同じHạnhでも、前に付く語で名前の印象が変わります。
ミドルネームのVăn・Thịにも男女の傾向がある
伝統的には、男性のミドルネームにVăn(文)、女性にThị(氏)がよく使われます。
たとえば、Nguyễn Văn Anは男性名、Nguyễn Thị Maiは女性名の基本形を示す説明例です。
ただし、ミドルネームがない人もいて、名前から性別が必ず分かるわけではありません。
ベトナム人は同じ名前が多すぎて困る
ベトナムでは名で呼んでも、会社や教室では同じ名前が重なることがあります。
私が技能実習生の送り出し機関の日本語センターで教えていた頃、あるクラスに同姓同名の生徒が三人いました。
実際の名前は忘れてしまったので、ここではNguyễn Thị Hương(グエン・ティ・フオン)という仮名にします。で、どう読んだかというと、そのクラスでは、Hương A、Hương B、Hương CとABCで分けられていました(笑)
区別の仕方
Trangさんが二人いたときは、こんな呼び方もありました。
Trang béo
Trang gầy
béoは太った状態、gầyは痩せた状態を表す言葉です。見た目で区別した例で、初対面の相手にまねすることはおすすめしません。
姓を添えて区別する方法もあります。
Bùi Linh
Trần Linh
名前が2語のLinhさんの場合2語、2語まとめて呼ばれるのが普通です。
Thủy Linh
Khánh Linh
タイベオ先生私の感覚では、Thủy Linhのように二語を続ける名も、最近は多くなりました。
ホーチミン市周辺の2007〜2011年生まれ約24万人を扱った集計では、一語単位の名の上位10個が、女性の41.2%、男性の31.6%を占めました。
一方、家族内では、先祖と同じ名を子につけるのを避ける伝統もあります。教室や職場で同名の人がいるのと、先祖の名と重なるのとでは、受け止め方が違うのです。
すべての家庭に共通する現代の決まりではなく、伝統的な慣習の一つです。
タイベオ先生呼び分けに迷ったときは、本人にどう呼んでほしいか聞いてみてください。
漢字にすると、日本人にもなじみのある名前になる
ベトナム人の名前を漢字にすると、私には昭和の頃の日本人の名前のように見えることがあります。
たとえばHoaさんは花ちゃん、声調の違うHòaさんなら和ちゃん。
Minhさんなら明、Tuấn Anhさんなら俊と英を合わせた俊英です。
ただし、同じ綴りに複数の漢字が対応することもあり、Minhにも明以外の候補があります。ここで挙げた漢字が、その人の名付けの由来とは限りません。
ちなみに私も、名前が〇太と言いますので、最後の文字の「太」を漢越音で読んでTháiと名乗っています。
僕は太いので【Thái=太】は自分にぴったりの名前だと思って気に入っています。
タイベオ先生長くそう呼ばれているので、今では自分の名前のように感じています。
あなたも自分の名前の漢字をベトナム語で読んでみてください。それがあなたのベトナム語名になります。ベトナム語の名前があると、ベトナム人との関係がグッと縮まりますよ!
漢字の読みについては漢越語の記事、自分の名前で試す方法はベトナム語名の記事で詳しく紹介しています。


まとめ
- ベトナムでは、姓ではなく名に呼称を添えて呼ぶのが基本
- Nguyễnは最も多い姓だが、複数の歴史的な背景があり、全員が同じ血筋ではない
- 名前には意味があり、男女の傾向はあっても例外がある
- 同じ名前が多い現場では、姓や前の語、その場の呼び名で区別している
- 漢字にすると、日本人にもなじみのある名前に見える
グエンさんが多いという話の先には、名前の意味や歴史、同じ名前を呼び分ける工夫があります。ベトナムの名前を見かけたら、そんなところにも目を向けてみてください。





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