ベトナム語の「あなた」と「私」を覚えようとして、Anh、Chị、Em、Cô、Chú、Bác……と次々に出てくる呼び方の多さに頭を抱えていませんか? 日本語なら「あなた」「私」の2つで済むところが、ベトナム語では相手の年齢や性別、関係性で呼び方がころころ変わります。
実は、ベトナム語の「あなた」と「私」は「相手が自分の親族だったら誰に当たるか」を思い浮かべるだけで、自然に決まるようになっています。
ベトナム語は他人を親族として呼び合う言語であり、この発想さえつかめば、複雑に見える人称代名詞は一気にシンプルに見えてきます。
この記事では、ハノイ在住10年以上・日常生活のほとんどをベトナム語で過ごす筆者が、教科書通りの暗記ではなく、現地で自然に身につけた「あなた」と「私」の使い分け方を解説します。
タイベオ先生ベトナム語の人称代名詞を整理して覚えたい方、ベトナム人と自然に話せるようになりたい方、ベトナムに住む・働く・結婚する予定がある方のお役に立てば嬉しいです。
ベトナム語で最も難しく、かつ最も大切なのが人称代名詞です。この基礎を理解した上で効率的な覚え方のメソッドを実践すれば、独学のスピードは劇的に上がります。
- ベトナム語の「あなた」と「私」が一気にわかる相手別の早見表
- 親族名称10個さえ覚えればOKという覚え方の発想
- 「Tôi / Bạn」だけでは現地で物足りない理由
- 在住10年の筆者が実際に使い分けている職場・市場・夫婦の呼び方
- 年配者を「叔父さん」「叔母さん」と呼ぶベトナム語の温かみ
ベトナム語の「あなた」と「私」は「相手が自分の親族なら誰かを思い浮かべる」だけ
ベトナム語の人称代名詞は数が多く、最初は誰でも戸惑います。でも実は、ベトナム語ネイティブの感覚をつかんでしまえば、覚えるべきことはとてもシンプルです。 このセクションでは、まず「とりあえずこれだけ覚えれば話せる」という結論をお伝えしてから、ベトナム語ならではの根本ルールを解説します。
結論|とりあえず「Tôi(私)」と「Bạn(あなた)」から始めればOK
ベトナム語の「あなた」と「私」を最速で覚えたいなら、まずこの2つだけ押さえてください。
| 日本語 | ベトナム語 | 読み方 |
|---|---|---|
| 私 | Tôi | トイ |
| あなた | Bạn | バン |
この2つは男女・年齢関係なく使える万能ペアです。旅行で短期間ベトナムに行く方や、ベトナム語を勉強し始めたばかりの方は、まずこの2つだけで会話を始めて構いません。
例:
Tôi tên là Akiko. Bạn tên là gì?
私の名前はアキコです。あなたのお名前は何ですか?
「Tôi」は本来「僕(しもべ)」という意味で、自分を指すときにへりくだったニュアンスを含みます。「Bạn」は「友達」という意味で、面識のない人や同年代の人に呼びかけるときに使う、フォーマルで中立的な呼び方です。
ただし、ここで一つ覚えておいてほしいことがあります。
タイベオ先生「Tôi / Bạn」だけでは、ベトナム人と本当の意味で仲良くなることはできません。
でも本当のベトナム語は他人を「親族として」呼ぶ言語
ベトナム人同士の会話を聞いていると、Tôi や Bạn はあまり登場しません。 代わりに使われているのは、「お兄さん」「お姉さん」「弟」「叔父さん」「叔母さん」といった親族名称です。
これがベトナム語の人称代名詞の最大の特徴です。
ベトナム語では、他人を呼ぶときも自分を指すときも、相手と自分の関係を「親族だったらどうなるか」に置き換えて表現します。
例えば:
- 自分より少し年上の男性 → お兄さん(Anh)として呼ぶ
- 自分より年下の女性 → 妹(Em)として呼ぶ
- 父親と同世代の男性 → 叔父さん(Chú)として呼ぶ
- 祖母と同世代の女性 → おばあさん(Bà)として呼ぶ
そして、自分のことも相手から見た親族関係で呼びます。年上の人と話すときの自分は「弟・妹(Em)」、年配者と話すときの自分は「甥・姪(Cháu)」になります。
つまり、話す相手によって自分の呼び方も変わるということです。
これは日本語にはない発想ですが、慣れてくるとむしろシンプルです。「あなた」と「私」を別々に覚えるのではなく、「相手=自分の親族だったら誰か」を思い浮かべれば、両方が同時に決まるからです。
相手別「あなた」と「私」の早見表
ここで、ベトナム語の「あなた」と「私」の早見表を見ておきましょう。 相手が自分にとって親族なら誰に当たるかを基準に整理しています。
| 相手は親族なら? | 相手の呼び方(あなた) | 自分の呼び方(私) |
|---|---|---|
| フォーマル・初対面 | Bạn | Tôi |
| お兄さん | Anh | Em |
| お姉さん | Chị | Em |
| 弟・妹 | Em | Anh(男)/Chị(女) |
| 親世代の男性(叔父) | Chú | Cháu(Con 南部) |
| 親世代の女性(叔母) | Cô | Cháu(Con 南部) |
| 親より年上の年配者 | Bác | Cháu(Con 南部) |
| 祖父 | Ông | Cháu(Con 南部) |
| 祖母 | Bà | Cháu(Con 南部) |
| 同級生 | Cậu | Tớ |
| 友達 | Bạn | Mình |
この表を眺めるとわかるのは、相手の呼び方と自分の呼び方が常に「親族関係の対」になっていることです。 相手がお兄さんなら自分は弟・妹、相手が叔父さんなら自分は甥・姪、というように、関係がペアで決まります。
まずはこの3組から覚える|年上・年下・フォーマル
早見表を見て「種類が多すぎる」と感じた方も、安心してください。 日常会話で頻繁に使うのは、まずは次の3組だけです。
1組目|フォーマル・初対面:Bạn と Tôi
初対面の人や、年齢・関係性がわからない相手にはこの組み合わせを使えばまず失礼になりません。
2組目|自分が年下のとき:Anh / Chị(あなた)と Em(私)
自分より年上の男性には Anh、年上の女性には Chị。そして自分は Em と名乗ります。 ベトナム人とのカジュアルな会話で最もよく使う組み合わせです。
3組目|自分が年上のとき:Em(あなた)と Anh / Chị(私)
自分より年下の男女には Em と呼びかけ、自分のことは男性なら Anh、女性なら Chị と呼びます。

この3組さえ押さえておけば、同世代から少し年上・少し年下のベトナム人との日常会話は十分にこなせます。年配者や同級生、夫婦の呼び方など、より細かい使い分けは次のセクションから順に解説していきます。
ベトナム語の人称代名詞でまず覚える親族名称10個

ベトナム語の「あなた」と「私」を相手別に思い浮かべるためには、まず親族名称そのものを覚える必要があります。 逆に言えば、親族名称さえ頭に入っていれば、人称代名詞の半分以上は終わったようなものです。 ここでは、ベトナム語で日常的に使う親族名称10個を一気に整理します。
親族名称の一覧表(読み方つき)
ベトナム語の主な親族名称は、次の10個です。 これらはすべて、そのまま他人を呼ぶ「あなた」にも、自分を指す「私」にも使われる言葉です。
| 親族名称 | ベトナム語 | 読み方 |
|---|---|---|
| お兄さん | Anh | アィン(アン) |
| お姉さん | Chị | チ |
| 弟・妹 | Em | エム |
| 叔父さん(親と同年代の男性) | Chú | チュー |
| 叔母さん(親と同年代の女性) | Cô | コー |
| 伯父さん・伯母さん(親より年上) | Bác | バック |
| おじいさん | Ông | オン |
| おばあさん | Bà | バー |
| 甥・姪・孫 | Cháu | チャウ |
| 子供 | Con | コン |
この10個を覚えてしまえば、ベトナム語ネイティブとの会話で出てくる「あなた」と「私」のほぼすべてをカバーできます。 最初に丸暗記しようとせず、声に出して読み上げながら、それぞれの言葉に「自分の親族の誰か」のイメージを重ねて覚えるのがおすすめです。
例えば「Bác」と聞いたら、自分の伯父さんや伯母さんの顔が浮かぶようにしておくと、街中で年配者を呼びかけるときにも自然と Bác が口から出てきます。
北部と南部で違う「甥姪・孫」の呼び方|cháu と con
10個の親族名称のうち、「甥・姪・孫・子供」を表す言葉だけは、北部と南部で異なります。
- 北部(ハノイなど):Cháu(チャウ)
- 南部(ホーチミンなど):Con(コン)
意味はどちらも同じで、「自分より一世代下の若者」を指します。 ハノイで使われている市販のベトナム語テキストはほぼ Cháu で書かれているので、北部弁を中心に学んでいる方は Cháu を基準に覚えておけば問題ありません。 ホーチミンや南部に住む予定の方、または南部出身のベトナム人と話す機会が多い方は Con も併せて覚えておくと違和感なく会話できます。
なお、「Con」は南部では一人称・二人称として使われますが、北部でも「子供」という意味の単語としては普通に使われています。文脈で判断できるので、混同を心配しなくて大丈夫です。
名前の前につけると「〜さん」になる|温かい敬称の作り方
ベトナム語の親族名称には、もう一つ大きな役割があります。 それは、名前の前に置くことで「〜さん」という敬称になることです。
例:
- Anh Minh(アィン・ミン) → ミンさん(年上男性)
- Chị Hoa(チ・ホア) → ホアさん(年上女性)
- Em Linh(エム・リン) → リンちゃん(年下女性)
- Bác Hồ (バック・ホー) → ホーおじさん(年配男性)
日本語の「〜さん」は単に相手を丁寧に呼ぶ表現で、そこに親しさのニュアンスはあまり含まれません。 でもベトナム語では、「ミン兄さん」「ホア姉さん」「ホーおじさん」のように、呼びかけた瞬間に親族のような距離感が生まれます。
この感覚は最初のうちはピンとこないかもしれません。でも、ベトナム人と会話を重ねていくうちに、「Anh Minh」と呼ばれることと「ミンさん」と呼ばれることの違いがじわじわとわかってきます。
ちなみに、ベトナム人の名前の前につけるときは、苗字ではなく名前(ファーストネーム)の前につけます。 例えばフルネームが「グエン・ティ・トゥイー」さんなら、「Chị Nguyễn」(グエンさん)ではなく「Chị Thúy」(トゥイーさん)と呼ぶのが正解です。これは日本語の「田中さん」とは逆の感覚なので、最初は戸惑うかもしれません。
ベトナム語で年上の人に「あなた」と「私」を言うときの使い分け
ここからは、相手別に「あなた」と「私」の具体的な使い分けを見ていきます。 まずは自分が年下の場合、つまり相手が自分より年上のときの呼び方です。
ベトナム語では、相手が年上か年下かで呼び方が大きく変わります。年上の人を呼ぶときの基本ルールはとてもシンプルで、「相手が自分の親族なら誰か」を考えれば、自分の呼び方も自動的に決まります。
タイベオ先生ちなみにベトナム人が初対面の人に年齢を聞く理由は、それによって今後の会話の「私」と「あなた」の呼び方を決めるためです。

年上男性には Anh、自分は Em
自分より年上の男性に話しかけるときは、Anh(アィン)を使います。これは「お兄さん」を意味する言葉です。 そして自分のことは、Em(エム)つまり「弟・妹」と名乗ります。
| 場面 | 相手の呼び方(あなた) | 自分の呼び方(私) |
|---|---|---|
| 自分が年下、相手が年上の男性 | Anh | Em |
例:
Em chào anh Minh.
ミンさん(お兄さん)、こんにちは。
Anh có khoẻ không?
お元気ですか?
職場の年上男性、初対面でも自分より少し年上に見える男性、年上の友人、お店の年上男性店員など、幅広く使えます。
年上女性には Chị、自分は Em

自分より年上の女性に話しかけるときは、Chị(チ)を使います。これは「お姉さん」を意味する言葉です。 自分のことは男女問わずEmで構いません。
| 場面 | 相手の呼び方(あなた) | 自分の呼び方(私) |
|---|---|---|
| 自分が年下、相手が年上の女性 | Chị | Em |
例:
Em chào chị Hoa.
ホアさん(お姉さん)、こんにちは。
Chị làm việc ở đâu?
どちらでお仕事されていますか?
ベトナムでは、相手が自分より年上に見えたら男性には Anh、女性には Chịを使う、という感覚をまず体に染み込ませておくと安心です。
親世代の男性には Chú、女性には Cô、自分は Cháu
相手が自分の親と同じくらいの年齢に見える場合、呼び方が一段階変わります。 親世代の男性にはChú(チュー)=叔父さん、女性にはCô(コー)=叔母さんを使います。 そして自分のことはCháu(チャウ)=甥・姪と名乗ります。
| 場面 | 相手の呼び方(あなた) | 自分の呼び方(私) |
|---|---|---|
| 親世代の男性 | Chú | Cháu |
| 親世代の女性 | Cô | Cháu |
例:
Cháu chào chú.
おじさん、こんにちは。
Cô ơi, cho cháu hỏi một chút.
おばさん、ちょっとお尋ねしてもいいですか?
市場のおばちゃん、近所の年配の方、親世代のお店の方など、街中で出会う「親と同じくらいの年齢の人」にはこの呼び方を使います。 もし年配者どうしであれば、 anh / chị / em の使い分けになります。
タイベオ先生ハノイの市場で店主のおばちゃんに話しかけるときは「Cô ơi(コー・オーイ)」と呼びかけるのが、最も自然で温かい呼び方です。
祖父母世代には Ông / Bà、自分は Cháu
相手が自分の祖父母と同じくらいの年齢の場合、呼び方はさらに変わります。 祖父世代の男性にはÔng(オン)=おじいさん、祖母世代の女性にはBà(バー)=おばあさんを使います。 自分のことはCháu(チャウ)=孫と名乗ります。
| 場面 | 相手の呼び方(あなた) | 自分の呼び方(私) |
|---|---|---|
| 祖父世代の男性 | Ông | Cháu |
| 祖母世代の女性 | Bà | Cháu |
例:
Cháu chào ông.
おじいさん、こんにちは。
Bà ơi, bà có cần giúp gì không?
おばあさん、何かお手伝いできることはありますか?
なお、相手が「親より少し年上の年配者」で、祖父母世代までは行かない場合は、男女問わずBác(バック)=伯父さん・伯母さんを使うこともあります。
Bác は性別を問わず使える便利な呼び方なので、年配の方への呼びかけで迷ったら Bác を選ぶのが無難です。
失敗談|誰にでも anh chị を使っていた頃の違和感
ここで、筆者自身の失敗談を一つ。
日本でベトナム語を勉強し始めたばかりの頃、筆者は年下から年配者まで、ほぼ全員に対して anh / chị を使っていました。 教科書で最初に出てくる人称代名詞が anh / chị だったので、これが単なる男女の違いだと思い込んでいたのです。
しかしハノイに移住して、実際にベトナム人の中で生活してみると、これがかなり不自然だったことに気づきました。 親世代の人に anh / chị と呼びかけるのは、日本語で言えば70歳のおじいさんに「お兄さん」と話しかけるようなもので、相手によってはやや違和感を持たれる呼び方です。
あと、職場やベトナム人の友人たちとの食事の場では、自分より年下の同僚や友人に対して律儀に anh / chị を使っていたら、「もっと気軽に em と呼んでください」と訂正されることがよくあります。 ベトナム人にとっては、年下の人を anh / chị と呼ぶのは、距離を置かれているように感じる呼び方なのです。
このときに学んだのは、ベトナム語では「失礼にならないように」と思って年上扱いしすぎると、かえって距離が遠くなるということです。
タイベオ先生相手に近づいて、自分の親族のように呼ぶことが、ベトナム語のもっとも自然な敬意の表し方なんだと、移住してから初めて理解できました。
ベトナム語で年下の人や同年代の友達に「あなた」と「私」を言うときの使い分け

次は、自分が年上の場合、または同年代の友達との呼び方です。 年下や同年代との会話では、年上の人と話すときよりも呼び方のバリエーションが豊富になります。親しさの度合いに応じて使い分けることで、ベトナム語の会話はぐっと自然になっていきます。
年下の男女には Em、自分は Anh または Chị
自分より年下の男女に話しかけるときは、Em(エム)を使います。男女問わず Em で構いません。 そして自分のことは、男性ならAnh(アィン)、女性ならChị(チ)と名乗ります。
| 場面 | 相手の呼び方(あなた) | 自分の呼び方(私) |
|---|---|---|
| 年下の男女(自分が男性) | Em | Anh |
| 年下の男女(自分が女性) | Em | Chị |
例:
Anh chào em.
(自分が男性から年下に)こんにちは。
Em ăn cơm chưa?
(年下に)ご飯食べた?
職場の年下の同僚、年下の友人、自分より明らかに若いベトナム人と話すときは、この組み合わせを使います。 日本語の感覚だと「年下を Em(弟・妹)と呼ぶ」のは少し抵抗があるかもしれませんが、ベトナム語ではEm と呼ぶことで、相手を弟や妹のように温かく扱っているというニュアンスが伝わります。
筆者自身、移住して職場で年下の同僚を Em と呼ぶようになってから、本当に弟や妹のような気持ちで接するようになりました。これがベトナム語の人称代名詞のおもしろいところで、呼び方が関係性そのものを作っていく感覚があります。
子供や若者には Cháu / Con(南部)
相手が自分の甥や姪と同じくらいの年齢、つまり子供や十代の若者の場合、Cháu(チャウ)を使います。南部ではCon(コン)になります。 自分のことは、男性ならChú(チュー)=叔父さん、女性ならCô(コー)=叔母さんと名乗ります。
| 場面 | 相手の呼び方(あなた) | 自分の呼び方(私) |
|---|---|---|
| 子供・十代の若者(自分が男性) | Cháu / Con | Chú |
| 子供・十代の若者(自分が女性) | Cháu / Con | Cô |
例:
Chú chào cháu.
(自分が男性から子供に)こんにちは。
Cháu mấy tuổi rồi?
何歳になった?
4,50代の方が、近所の子供や友人の子供、若いアルバイト店員に話しかけるときに使う呼び方です。
ちなみに筆者は40代に入った頃、それまで自分が20代〜30代前半だった時に若い子達を Em と呼んでいたのを、高校生ぐらいの子にはCháu に切り替える必要が出てきました。
タイベオ先生でもずっと Em を使ってきたので、Cháu と呼ぶことには最初は少し抵抗がありました。
でも、相手の若いベトナム人からすれば、自分の親と同年代の人に Em と呼ばれるほうがむしろ違和感があるはずです。年齢を重ねるにつれて、自然と Cháu を使う場面が増えていきます。
年下の管理職は anh chị か em か|関係性で決まる
ベトナムで働いている方、特に自分より年下のベトナム人が上司や管理職にいる場面では、呼び方に少し迷うことがあります。 基本的にベトナム語では年齢で呼び方が決まるので、上司であっても自分より年下なら理屈上は Em ですが、ビジネスの場ではそう簡単に割り切れません。
筆者の経験では、関係性が薄い段階や初対面では anh / chị を使うのが無難です。仕事の相手として一定の距離を保ちつつ敬意を表すには、年齢に関係なく anh / chị を選ぶほうが自然な場面が多いです。
ただし、ある程度関係が深まってくると、相手のほうから「Em と呼んでください」と言われることもよくあります。 この訂正は、ベトナム人にとっては「もう私たちは仲間ですよ」という親しみのサインです。訂正された時点で、迷わず Em に切り替えてしまって構いません。
つまりベトナムのビジネスシーンでの基本ルールは:
- 初対面や関係が浅いうち:相手が年下でも anh / chị
- 訂正されたら:Em に切り替える
この流れさえ押さえておけば、年下の管理職を呼ぶときに失礼になることはありません。
同級生は Tớ / Cậu|ドラえもんとのび太もこう呼び合う
同級生や同年代の友達同士では、親族名称ではなく専用の呼び方があります。 それがTớ(トー)=僕・私とCậu(コウ)=キミのペアです。
| 場面 | 相手の呼び方(あなた) | 自分の呼び方(私) |
|---|---|---|
| 同級生・同年代の親しい友達 | Cậu | Tớ |
例:
Tớ thích đi chơi với cậu.
(僕は)キミと遊ぶの好きだよ。
Cậu đang làm gì?
キミ、何してるの?
この呼び方が一番イメージしやすいのは、ベトナム語版『ドラえもん』です。 ドラえもんとのび太は、お互いを Tớ と Cậu で呼び合っています。日本語版で「ぼく」「キミ」と呼び合っているニュアンスが、そのままベトナム語版でも再現されているわけです。

筆者自身は子供時代をベトナムで過ごしていないので、Tớ / Cậu を実生活で使う機会は多くありません。 でも、ベトナム人の友人たちが学生時代の同級生と話しているのを聞いていると、自然と Tớ / Cậu が飛び交っています。この呼び方が使えると、相手に「同年代の仲間」として認識されている感覚が伝わるようです。
友達同士は Mình / Bạn
同年代の友達でも、Tớ / Cậu ほどカジュアルではない場合や、相手とまだそこまで親しくない場合は、Mình(ミン)=自分・私とBạn(バン)=あなた・友達のペアを使います。
| 場面 | 相手の呼び方(あなた) | 自分の呼び方(私) |
|---|---|---|
| 同年代の友達・知り合い | Bạn | Mình |
例:
Mình sẽ đến sau.
(私は)後で行くね。
Bạn có rảnh không?
ヒマある?
筆者の妻は、カフェやレストランで店員を呼ぶときに「Bạn ơi」と呼びかけることがよくあります。 店員が同年代くらいの場合、Em でも Bạn でもどちらも自然です。Bạn は中立的で礼儀正しく、それでいて親しみがある呼び方なので、ベトナム人女性が店員に呼びかけるときによく使われています。
外国人がベトナムで生活したり旅行したりするときに「Bạn」を使うのは、まったく問題ありません。むしろ、相手の年齢を見極めて Anh / Chị / Em を使い分けるのが難しいうちは、Bạn を使ってフォーマルに丁寧に呼びかけるのが安全です。
「俺・お前」の Tao / Mày は親しさの証だが要注意
最後に、ベトナム語のもっともカジュアルな呼び方としてTao(タオ)=俺とMày(マイ)=お前・てめえがあります。
| 場面 | 相手の呼び方(あなた) | 自分の呼び方(私) |
|---|---|---|
| 非常に親しい友人・兄弟同士 | Mày | Tao |
例:
2 giờ chiều mai sang nhà tao nhé!
明日の2時、俺ん家に来てね!
これは非常に親しい関係でしか使えない呼び方です。子供時代からの幼馴染、兄弟同士、本当に気心の知れた友人同士の間では、Tao / Mày が普通に飛び交います。
ただし、関係性が浅い相手や、フォーマルな場面で Tao / Mày を使うと極めて失礼な印象を与えます。 日本語で言えば「てめえ」「おまえ」と呼びかけるようなもので、場合によってはケンカの言葉にもなります。 外国人がベトナムで Tao / Mày を使う場面は、よほど親しい友達ができたとき以外は、基本的にないと考えておいて大丈夫です。
「Tao / Mày という呼び方があるんだな」という知識として頭に入れておくだけで十分です。
ベトナム語で年配者を「あなた」と呼ぶ温かみ|筆者が一番好きな呼び方

ここまで、年上・年下・同年代の呼び方を見てきました。 このセクションでは、筆者がベトナム語の人称代名詞のなかで一番好きな呼び方である、年配者への呼びかけを取り上げます。
ベトナム語で年配者を呼ぶときに使う bác / chú / cô / ông / bà という呼び方には、ほかの言語にはない独特の温かみがあります。これらの呼び方が自然に口から出てくるようになると、ベトナム語が単なる外国語ではなく、ベトナム文化そのものを身につけた感覚になります。
年配者を「叔父さん」「叔母さん」と呼ぶというベトナム語の発想
私の故郷、大阪では、見ず知らずの人にも「おっちゃん」とか「おばちゃん」、「お父さん」「お母さん」と話しかけることが割と普通ですが、関東や他の地域ではそこまで距離は近くないでしょう。
ベトナムでは、まったく面識のない年配者に対しても、自分の叔父・叔母・祖父母のように呼びかけるのが当たり前です。
- 親と同世代の男性 → Chú(叔父さん)
- 親と同世代の女性 → Cô(叔母さん)
- 親より年上の男女 → Bác(伯父さん・伯母さん)
- 祖父世代の男性 → Ông(おじいさん)
- 祖母世代の女性 → Bà(おばあさん)
そして自分のことは、Cháu(甥・姪・孫)と名乗ります。
これは単なる呼び方のルールではなく、「他人を親族として迎え入れる」というベトナムの文化そのものが言葉に染み込んでいるということです。 町の食堂のおばちゃんを Cô と呼ぶとき、管理人のおじさんを Chú と呼ぶとき、その瞬間に相手と自分の間に「親族」の関係が生まれます。
移住直後、友達が bác cô chú を使うのを見て自然と身についた
筆者がこの呼び方の温かみに気づいたのは、ハノイに移住した直後のことです。
当時、よく一緒に出かけていたベトナム人の友達が、街中の年配者に対して当たり前のように 「Cô ơi」「Chú ơi」「Bác ơi」と呼びかけているのを聞いて、なんともいいなあと感じたのを覚えています。 お店の年配のおばちゃんに「Cô ơi」と話しかけ、屋台の年配の店主に「Chú ơi」と声をかける友達の姿は、見ず知らずの相手なのに、まるで自分の親族と話しているかのような距離感でした。
教科書で「年配者には Bác や Chú、Cô を使う」と読んでも、最初はピンと来ません。 でも、実際にベトナム人がこの呼び方を使っている場面に何度も触れていると、感覚として自然と身についていきます。
そして結婚してからは、妻と一緒に行動する機会が一気に増えました。 妻が市場のおばちゃんに「Cô ơi」と話しかけ、自分のことを Cháu と名乗っている場面を何度も目にしているうちに、この呼び方の感覚はさらに深く身についていきました。 妻と一緒に過ごすことで、教科書では絶対に教えてもらえないリアルなベトナム語の使い方が、生活の中に染み込んでくる感覚があります。
筆者が街中で年配者に「Cô ơi」と呼びかけられるようになったとき、ベトナム語が自分の中で日本語の「すみません」とは違う、もっと温かい言葉として根付き始めた感覚がありました。 それは、自分のなかの「叔母さん」「伯父さん」というイメージを、目の前のベトナム人の年配者に重ねている感覚です。
40代を超えてからは自分が chú や bác と呼ばれるようになった
呼び方は、自分が年齢を重ねるにつれても変わっていきます。
ハノイに来たばかりの30代の頃、筆者は街中で「Anh ơi」と呼ばれることがほとんどでした。お店に入っても、知らないベトナム人に道を尋ねられても、Anh と呼ばれるのが当たり前でした。
ところが30代後半に差し掛かった頃、ある日コンビニで若いアルバイトの店員から「Chú ơi」と声をかけられたことがあります。 最初は少し驚きました。「自分はもう Chú の年齢になったのか」と複雑な気持ちになったのです。 でも冷静に考えれば、その若い店員からすれば、筆者の年齢はちょうど親と同世代のはず。Chú と呼ばれるのはむしろ自然なことでした。
そして40代に入り、最近ではビジネスの現場で敬意を込めて「Bác」と呼ばれることも増えてきました。商談の場で年下の相手から「Bác」と呼ばれると、自分が一段上の世代として扱われていることを実感します。 さらに、近所や友人の幼い子供たちはみんな筆者のことを 「Bác」と呼びます。子供たちの目線では、筆者はもう祖父の手前の世代に見えているということです。
タイベオ先生ベトナムに住んでいると、自分の年齢の変化が呼ばれ方の変化として返ってくるのを実感します。これも、人称代名詞が親族名称で成り立っているベトナム語ならではの感覚です。
若者が年配者に対して自分を cháu / con と呼ぶのは普通|3パターンでは足りない理由
ベトナム語の人称代名詞の解説で、「Anh / Chị / Em の3つを覚えればOK」という説明を見かけることがあります。 たしかに同年代から少し年上、少し年下の人との会話なら、この3つで大半は事足ります。
タイベオ先生しかし、現地で実際に生活してみると、3パターンだけでは明らかに不自然な場面が多いのです。
ベトナムでは、若者が年配者に対して話すとき、自分のことを「Cháu」(北部)または「Con」(南部)と呼ぶのは当たり前です。20代の若者が60代の年配者に「Em」と名乗ることはほぼありません。
例えば、市場で20代の若いベトナム人が60代の店主のおばちゃんに話しかけるとき、若者は自分のことを Cháu、店主のことを Cô と呼びます。レストランで若いベトナム人スタッフが年配のお客さんに話すとき、スタッフは自分のことを Cháu と名乗ります。
ベトナムの文化では年上の人に敬意を払うのが当然なので、若者が自分を Cháu と呼ぶのは「礼儀」と「親しみ」を同時に表す表現として深く根付いています。
つまり、
- 自分が若者の側:年配者に対して自分は Cháu / Con
- 自分が年配者の側:若者に対して自分は Chú / Cô / Bác
という関係を理解せずに「3パターンだけ」で済ませると、ベトナム人との会話で違和感が出ます。
タイベオ先生現地でベトナム語を使うなら、最初から年配者向けの呼び方も含めて覚えておいたほうが圧倒的に有益です。
ベトナム語で配偶者・夫婦における「あなた」と「私」

ベトナム人と結婚する予定の方、またはベトナム人の夫婦の会話を聞く機会がある方なら、夫婦が普段どう呼び合っているのかが気になるかもしれません。
ベトナム語のテキストを開くと、夫婦は「Anh / Em」で呼び合うと書かれていることが多いです。年上の夫が妻を Em と呼び、妻が夫を Anh と呼ぶ、というのが定番の説明です。
では、姉さん女房、つまり妻のほうが夫より年上の夫婦の場合はどうなるんでしょうか。
実際に現地に住んで結婚すると、Anh / Em だけではない、もっと一般的な呼び方があることに気づきました。 これはテキストにはほとんど書かれていない、現地で生活しないと知ることのできない情報です。
夫婦は anh em ではなく vợ chồng で呼び合う
ベトナム人の夫婦が日常会話でお互いをよく呼び合っているのが、Vợ(ヴォ)=妻 と Chồng(チョン)=夫 のペアです。
| 呼び方 | ベトナム語 | 意味 |
|---|---|---|
| 夫が妻を呼ぶ | Vợ | 妻 |
| 妻が夫を呼ぶ | Chồng | 夫 |
例:
Vợ ơi, ăn cơm thôi!
妻よ、ご飯食べよう!
Chồng ơi, hôm nay đi đâu?
夫よ、今日どこ行く?
そのまま訳すと「妻よ」「夫よ」という直訳的な呼び方なので、日本人の感覚では少し違和感があるかもしれません。 日本語で配偶者を「妻よ」「夫よ」と呼ぶことは、よほど演劇的な場面でなければありません。
ところがベトナム語では、Vợ ơi / Chồng ơi はごく日常的な呼びかけとして使われています。これはベトナム語の人称代名詞が「関係性そのものを言葉にする」性質を持っているからです。Anh / Em が「兄と妹」という年齢の上下関係を示すのに対して、Vợ / Chồng は「配偶者」という関係そのものを直接呼びかけている形になります。
タイベオ先生ちなみに私の妻も、私のことを「Chồng(チョン)」呼びます。 自分のことは「Vợ(ヴォ)」と名乗ります。
この「Chồng ơi」を妻は日本語で「おっと〜」と呼んできます。 人前で「おっと〜」と呼ばれて、最初の頃は思わず笑ってしまっていましたが、最近ではすっかり慣れました。
姉さん女房の夫婦も vợ chồng で呼び合う|年齢関係なし
ベトナムでも、姉さん女房、つまり妻のほうが夫より年上の夫婦がたまにいます。 このとき、ベトナム語の年齢ルールに従うなら、年上の妻が夫を Em と呼び、年下の夫が妻を Chị と呼ぶことになるはずです。
私もふと気になって、友人の姉さん女房カップルに、「お互いを何と呼び合っているのか」を聞いてみたところ、この場合もお互いを Vợ / Chồng で呼ぶという答えが返ってきました。
つまり、配偶者同士の「私」と「あなた」は年齢の上下関係に縛られず、Vợ / Chồng が中立的に使えるのです。 夫が年下であっても妻を chị と呼ぶのではなく、Vợ と呼ぶ。妻が年上でも夫を em と呼ぶのではなく、Chồng と呼ぶ。
ちなみに筆者と妻の場合、妻が年下なので、妻は筆者を Anh と呼ぶこともあれば Chồng と呼ぶこともあります。 一方、筆者は妻のことを基本的に Em と呼んでいます。これは妻が年下なので Em が自然だからです。
義両親は bố mẹ|結婚した日本人が知っておきたい呼び方
ベトナム人と結婚した日本人にとって、もう一つ知っておきたいのが義両親の呼び方です。
ベトナム語では、義父・義母をBố(ボー)=お父さん / Mẹ(メ)=お母さんと呼びます。 これは実の両親を呼ぶときとまったく同じ呼び方で、義理だからといって特別な呼び分けはありません。
| 呼び方 | ベトナム語 | 意味 |
|---|---|---|
| 義父・実父 | Bố | お父さん |
| 義母・実母 | Mẹ | お母さん |
例:
Con chào bố mẹ.
お父さん、お母さん、こんにちは。
これは日本語の「お義父さん」「お義母さん」のような区別がないため、日本人にとっては最初少し戸惑う部分です。 でも、ベトナムでは結婚した相手の親も実の親と同じように呼ぶのが当たり前で、これもまた「親族として呼び合う」というベトナム語の発想に沿った自然な使い方です。
なお、義両親に話しかけるときの自分の呼び方は、Con(コン)=子供 を使います。北部・南部問わず、義両親に対しては Cháu ではなく Con を使うのが一般的です。 これは「あなたたちの子供として話しています」というニュアンスを含んでおり、結婚によって新しい親子関係が生まれたことを言葉のうえで認める呼び方になります。
タイベオ先生私も、妻のお父さんにはCon として接し、Bố と呼ぶようになって、自分が新しい家族の一員になった実感を持つようになりました。
ベトナム語の人称代名詞は、こうしたところでも「言葉が関係性そのものを作っていく」働きをしています。
ベトナム語の「あなた」と「私」がスッと出てくるようになる2つのコツ
ここまでベトナム語の人称代名詞を相手別に見てきました。 種類が多くて頭が整理しきれないと感じた方も、心配いりません。 最後に、ベトナム語の「あなた」と「私」が会話の中でスッと自然に出てくるようになるための、2つのシンプルなコツをお伝えします。
コツ1|相手が自分の親族なら誰か思い浮かべる

1つ目のコツは、この記事で何度も繰り返してきた「相手が自分の親族なら誰に当たるか」を思い浮かべることです。
ベトナム語ネイティブは、人と話すたびに「この人は自分の親族なら誰だろう」と無意識に判断して、瞬時に呼び方を選んでいます。
具体的な手順はこうです:
- 目の前の相手の年齢・性別を見て、自分の親族のなかで誰に近いかを思い浮かべる
- その親族名称をそのまま「あなた」として使う
- その親族の対になる呼び方を「私」として使う
例えば:
- 自分より少し年上の女性 → お姉さんに近い → 相手は Chị、自分は Em
- 親と同じ年代の男性 → 叔父さんに近い → 相手は Chú、自分は Cháu
- 祖父と同じ年代の男性 → おじいさんに近い → 相手は Ông、自分は Cháu
この思考を会話のたびにくり返していくと、最初は意識しないと出てこなかった呼び方が、いつの間にか自然と口から出るようになります。 一気に覚えようとせず、目の前の人を「親族の誰に当たるか」と1人ずつ判断していくのが、結局いちばん早い覚え方です。
コツ2|ベトナム人同士の呼び合いを観察する
2つ目のコツは、ベトナム人同士がお互いをどう呼び合っているかを観察することです。
これは筆者がベトナム語の人称代名詞を感覚として身につけた、もっとも効果的な方法でした。 ベトナム人の友達と一緒にカフェに入ったとき、市場に行ったとき、街中を歩いているとき。周りで交わされている会話に少し意識を向けるだけで、生きた呼び方の使い分けが学べます。
例えば:
- カフェの若い店員に、ベトナム人の友達はどう呼びかけているか
- 市場で買い物をしている年配のおばちゃんは、店主のことを何と呼んでいるか
- 屋台で食事をしている家族連れは、お互いをどう呼び合っているか
教科書には書かれていない、生のベトナム語の使い分けの感覚は、この観察からしか得られません。
筆者の場合、ハノイに移住した当初は意識的に周りのベトナム人の会話に耳を傾けていました。 そして結婚してからは妻と一緒に過ごす時間が増え、妻が場面ごとに使い分ける呼び方を毎日のように見ているうちに、人称代名詞の感覚は完全に体に染み込みました。 生活のなかでベトナム人と一緒に過ごし、呼び合いの場面を観察する。これが教科書を10冊読むよりも効果的な学習法です。
生活シーン別の使い分け|職場・市場・タクシー・カフェ
参考までに、筆者がハノイの日常生活で実際に使っている呼び分けを、シーン別に整理しておきます。 ご自身がベトナムで生活したり旅行したりする場面のイメージとして、お役立てください。
職場での呼び方
- 同僚・部下:Anh / Em または 名前 + ơi(例:Linh ơi、Minh ơi)
- 上司:Anh / Chị、または Sếp(セップ)= 上司
- 親しくなった部下や年下の同僚:Em
職場では、最初は anh / chị で距離を保ちつつ、関係が深まったら自然と名前呼びや em に切り替わっていく、というのが一般的な流れです。 「Sếp」は「上司」「ボス」を意味する単語で、上司に対して敬意を込めて呼びかけるときに使います。
市場・お店での呼び方
- 市場の年配のおばちゃん:Cô ơi
- タクシー運転手:Anh ơi
- カフェ・レストランの若い店員:Em ơi または Bạn ơi
市場で野菜や肉を買うとき、ハノイのおばちゃんに「Cô ơi」と呼びかけると、相手の表情がパッと和らぎます。 タクシー運転手は男性が多いので、年齢に関係なく Anh と呼びかけておけばまず外しません。 カフェやレストランの若い店員は Em が一番自然ですが、女性のお客さんは Bạn ơi を使うことも多いです。
学校での呼び方
- 男性の先生:Thầy(タイ)
- 女性の先生:Cô(コー)
- 生徒が自分を呼ぶとき:小学生なら Con、中学生以上なら Em
学校の先生は親族名称ではなく、専用の「先生」を意味する呼び方を使います。 筆者は以前、ベトナムの日本語学校で日本語教師をしていたので、学生たちからは常に「Thầy ơi」と呼ばれていました。これも今となっては懐かしい呼ばれ方の一つです。
Tôi / Bạn からスタートしてOK|まずは話せることが大事
ここまで読んでみて、「やっぱり覚えることが多すぎる」と感じた方もいるかもしれません。 そんなときは、最初に紹介した Tôi / Bạn からスタートしても大丈夫です。
完璧な使い分けを目指して話すのを止めてしまうより、Tôi / Bạn でいいから話してしまうほうが、ベトナム語の上達は圧倒的に早いです。 話してみて、ベトナム人から「Em と呼んでください」「Cháu でいいですよ」と訂正されたら、その時点で切り替えればいいだけ。
ベトナム人は外国人がベトナム語を話してくれること自体をとても喜んでくれるので、呼び方を間違えたところで笑顔で受け止めてくれます。 完璧を目指す前に、まずは口に出すこと。これがベトナム語の人称代名詞を最速で身につける、いちばん大事な姿勢です。
ベトナム語の「あなた」と「私」によくある質問
最後に、ベトナム語の人称代名詞についてよくいただく質問をまとめておきます。本文で詳しく触れきれなかった部分の補足としてお役立てください。
ベトナム語の「あなた」と「私」は親族として呼び合う温かい言語
ここまで、ベトナム語の「あなた」と「私」の使い分けを、相手別・シーン別に見てきました。 最後に、筆者がハノイに10年住んできて感じている、ベトナム語の人称代名詞の本当の魅力についてお伝えしておきたいと思います。
ベトナム語で他人を呼ぶときに親族名称を使うのは、単なる文法ルールではありません。これはベトナムという国の文化そのものが言葉に染み込んだ結果です。
ベトナム人にとって、街で出会う年配の女性は他人ではなく「Cô(叔母さん)」であり、屋台で働く中年の男性は「Chú(叔父さん)」、そして道端で遊ぶ子供たちは「Cháu(甥っ子・姪っ子)」です。 ベトナム国民全体が、お互いを大きな家族の一員として呼び合っているといっても言いすぎではありません。
この感覚は、日本語にはほとんどありません。 日本では、見ず知らずの年配の方を「あのおっさん」「あのばばあ」と軽蔑を込めて呼ぶ人がいます。でも、自分の本当の伯父さんや伯母さんに対して、そんな乱暴な言葉を使う人はいません。 家族や親族には、自然と敬意と親しみがにじむ呼び方を選ぶのが、人間の感覚として当たり前だからです。
ベトナム語はその感覚を、他人にまで広げています。 町を歩いている見ず知らずの年配者を Cô や Chú と呼ぶことで、その人を自分の親族の一員として迎え入れている、ということになります。 だから、たとえ相手にちょっとムカつくようなことがあっても、親族として話している以上、細かいことは許せてしまう。 ベトナム人同士の会話に流れている独特のおおらかさは、この親族名称ベースの言葉づかいに支えられているように、筆者には感じられます。
ベトナム語の人称代名詞を覚えるということは、単に「あなた」と「私」の言い方を暗記することではありません。 それは、ベトナム人がお互いをどう見ているか、どんな距離感で生きているかを、言葉を通して理解していく作業です。
最初は、Anh / Chị / Em / Bác / Chú / Cô / Cháu と覚えるべきものが多くて頭がパンクするかもしれません。 でも、目の前のベトナム人を「自分の親族なら誰に当たるか」と思い浮かべる癖がついてくると、ある日ふと気づきます。 自分の中で、ベトナム人が「他人」ではなく「親族」として見えるようになっているということに。
そのとき、ベトナム語は単なる外国語ではなく、ベトナム文化そのものを身につけた言語として、自分の中に根付き始めます。
タイベオ先生「言葉を学ぶことは、その国の文化を学ぶこと」という言葉がありますが、ベトナム語の人称代名詞ほどそれを実感できるテーマは、なかなかないと思います。
ベトナム語を学んでいるすべての方が、いつか「Cô ơi」「Chú ơi」「Cháu chào bác」と自然に呼びかけられる日が来ることを、ハノイから応援しています。
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