ベトナム語の覚え方|在住10年が3言語で確立した「覚えようとしない暗記法」

効果的なベトナム語の覚え方「覚えようとしない暗記法」の解説図解。脳が自然に情報を吸収する仕組みをイメージしたアイコンと説明文。

ベトナム語の単語帳をめくっても、翌日には頭から消えている。 似たような音の単語が混ざってしまい、何度書いても覚えられない。 そんなふうに、ベトナム語の覚え方で行き詰まっている方は多いのではないでしょうか。

実は、ベトナム語は「覚えようとしない」方が、結果的に頭に残ります。

筆者自身、この方法を中国語で確立し、ベトナム語に戻り、いまでは少数民族のモン語にも応用しています。3つの言語で同じ結果が出た、再現性のあるメソッドです。

この記事では、ハノイ在住10年以上・日越国際結婚・ベトナムのローカル企業で日常のほとんどすべてベトナム語で過ごす筆者が、3言語で実証した「覚えようとしない暗記法」を解説します。

タイベオ先生

ベトナム語の単語がなかなか覚えられず悩んでいる方、丸暗記に疲れた方、初級から先に伸び悩んでいる方のお役に立てば嬉しいです。

この記事でわかること
  • 初心者が最初にやるべき「聞き込み式」の覚え方(200回聞く具体的な手順)
  • 中級以降に効く「精読式」の覚え方(蛍光ペンと辞書で「再会」させる方法)
  • 単語だけでなく、文法・構文・慣用表現まで無意識にインプットされる仕組み
  • 中国語・モン語でも実証された、3言語に共通する独学の原理
目次

ベトナム語の覚え方は「覚えようとしない」が結論

最初に結論をお伝えします。

ベトナム語の覚え方で一番効くのは、「覚えようとしない」ことです。 無機質に単語帳を眺めて暗記しようとするのではなく、聞き流したり読んだりする中で、脳の方に勝手に覚えさせる方法です。

筆者がベトナム語独学14年、中国語、少数民族のモン語と3つの言語で同じ結果を出してきた、再現性のある方法です。

具体的には、学習レベルによってアプローチが2段階に分かれます

学習レベル覚え方やること
初心者〜初級聞き込み式1つの音声ファイルを200回聞いて、脳内再生できるようにする
中級〜上級精読式文章を辞書を引きながら読み、頻出単語に何度も「再会」させる

初心者は、まず音とフレーズを脳に刷り込む「聞き込み式」から始めてください。 基礎の1000語が身についた後、次に進めなくなったら「精読式」に移行します。

「覚えようとしない」とは、何もしないという意味ではありません。 「覚えよう」と意識する代わりに、聞き込みや精読という具体的な行動を続けることで、脳の方が自動的に覚えてくれる仕組みです。

ヒットソングや店内のBGMが、暗記しようとしなくても口ずさめるようになるのと同じ原理です。 外国語の単語にも、これと同じ仕組みが使えます。

次のセクションから、なぜ「覚えようとして覚える」と続かないのか、そして2段階それぞれの具体的なやり方を順に解説していきます。

ベトナム語が覚えられない3つの原因|単語帳・丸暗記・脈絡なし

ベトナム語の覚え方の本題に入る前に、なぜ多くの人がベトナム語の単語を覚えられずに挫折するのか、原因を整理しておきます。

原因は大きく3つあります。

  • 単語帳とにらめっこする「丸暗記」をしている
  • 必須単語を超えても「単語帳とにらめっこ」を続けている
  • 音を聞かずに、文字だけで覚えている

原因1|単語帳とにらめっこする「丸暗記」をしている

一番多いのが、単語帳やテキストの単語リストを無機質に眺めて、ひたすら暗記しようとするパターンです。

この方法には大きな問題があります。

タイベオ先生

つまらないので続きません。

語学の勉強は、楽しくなければ脳が受け付けてくれません。 「覚えなきゃ」というプレッシャーを掛ければ掛けるほど、勉強がストレスになり、脳が拒否反応を示します。

そして無機質な丸暗記で覚えた単語は、たとえその瞬間は思い出せても、翌日にはきれいに頭から消えています。 これでは、いくら時間をかけても語彙が積み上がりません。

原因2|必須単語を超えても「単語帳とにらめっこ」を続けている

もう1つの原因は、必須単語を覚えた後も、無機質な単語リストでの丸暗記を続けようとすることです。

「ăn=食べる」「đi=行く」「cảm ơn=ありがとう」のような、誰もが通る必須単語は、リストで丸暗記してしまった方が効率的です。 ところが多くの人が、必須レベルを超えた初中級・中級・上級の単語まで、同じやり方で覚えようとしてしまいます。

中級以降の単語は、実際の文の中で見たり聞いたりしないと、定着しないばかりか、使い方もわかりません

単語帳でいくら微妙な意味の違いを覚えても、実際の会話では音が繋がって聞き取れない、文脈に合わせて使えない、ということが起きます。

初級から先で「なかなか語彙が増えない」と感じたら、それは単語帳の使い方が合っていない合図です。

原因3|音を聞かずに、文字だけで覚えている

ベトナム語特有の落とし穴がこれです。

ベトナム語はアルファベット表記なので、文字だけ見れば読めそうに感じます。 そのため、初心者の多くが音声を聞かずに、文字だけで単語を覚えてしまうのです。

しかしベトナム語は、6つの声調と、日本語にない母音・子音を持つ言語です。 文字だけで覚えた単語は、実際に耳で聞いたときに意味が結びつきません。

たとえば「ma(幽霊)」「má(母)」「mà(しかし)」「mả(墓)」「mã(記号)」「mạ(稲)」は、文字で見れば違いがわかりますが、声調記号の意味を音として理解していなければ、聞いたときには全部同じ「マ」に聞こえてしまいます。

タイベオ先生

「文字で覚える」と「音で覚える」は、まったく別の作業なのです。

ベトナム語の単語は、最初から音とセットで覚える必要があります。 そのために有効なのが、後ほど解説する「聞き込み式」です。

ベトナム語が覚えられない3つの原因(丸暗記・続けすぎ・音なし学習)を解説する図解画像。単語は「音と文脈」で覚えるのが上達のポイントであることを示しています。

「初級1000語の壁」にぶつかる人が多い

これら3つの原因を抱えたまま勉強を続けると、ある段階で必ず壁にぶつかります。

筆者がハノイに移住した直後がまさにそうでした。 日本でテキストを使って初級レベルの1000語ほどは覚えたつもりでいたのに、現地で会話してみると、わからない、聞き取れない言葉の連続。 意味自体は簡単なのに「そんな言葉、初めて聞いたよ」ということばかりだったのです。

初級1000語をどれだけ完璧に覚えても、それだけでは実生活のベトナム語には届きません。 ここから先に進むには、覚え方そのものを変える必要があります。

タイベオ先生

次のセクションから、その新しい覚え方を具体的に解説していきます。

【初心者向け】ベトナム語の覚え方ステップ1|聞き込み式で200回聞く

ベトナム語学習のステップ1「聞き込み式」の解説図解。1つの音声トラックに絞って200回繰り返し聞くことで、脳に音を定着させる方法を説明しています。

ベトナム語の覚え方の最初のステップは、1つの音声トラックを200回聞き込むことです。

「200回も?」と思われるかもしれませんが、ヒットソングのサビが頭から離れないのと同じ仕組みです。 意識して暗記しなくても、繰り返し耳に入れば、脳の方が勝手に覚えてくれます。

このステップは、初心者〜初級レベル(基礎の1000語までを身につける段階)で特に効果を発揮します。

ここで覚えたい「覚える」の定義を先にはっきりさせておきます。

  • 単語を見たときに意味がわかる
  • 聞いたときに意味がわかる

この2つが「覚えた」状態です。 口から出せるかどうかは、別の工程として後ほど解説します。 まずは耳から脳にインプットすることに集中してください。

なぜ200回なのか|CMソングと同じ仕組み

ヒットソングや企業のCMソング、店内のBGMが、暗記しようとしなくても口ずさめるようになる現象を、誰しも経験したことがあるのではないでしょうか。

ヤマダ電機やドンキの店内に入った後、しばらく耳にこびりついて取れない。 気づいたら、あのフレーズを口ずさんでいる。 これは脳が勝手に記憶している証拠です。

外国語の単語やフレーズも、これと同じ仕組みで覚えられます。 意識して暗記する代わりに、何度も耳に入れることで、脳に自動的に定着していきます。

筆者の経験では、1つのトラックを200回ほど聞いたあたりで「卒業」できる感覚があります。 そこまで聞き込めば、そのトラックの単語とフレーズは脳に染み込んで、考えなくても意味が浮かぶようになります。

ベトナム語を聞き込みで覚える3ステップ

具体的な手順は次の3ステップです。

ステップ1|1つのトラックをひたすらリピート再生する

テキスト付属の音声から、1つのトラックを選びます。 それを通勤・家事・寝る前など、すきま時間にリピート再生し続けます。 脳がバグるぐらい、永遠にループさせます。

ここで注意点が1つあります。 聞き流すのはよいのですが、耳を音に集中させてください。 流しっぱなしで実際には音を聞いていない、というのが一番ありがちな失敗です。 ぼんやりBGMにしていると、200回再生しても効果はゼロです。

ステップ2|睡眠を挟みながら、日をまたいで反復する

聞き込みで大事なのは、1度に200回聞くことではありません。 1日に何百回聞いても、それだけでは脳に定着しません。

数回の睡眠を挟むことで、脳が情報を整理し、長期記憶に移してくれます。 だから、毎日少しずつでよいので、何日にも分けてトータルで200回ぐらいを積み上げる形にしてください。

ステップ3|卒業した後も、忘れた頃にもう一度聞く

200回聞き終わって「もう完璧」と感じても、しばらくしてから再度聞いてみることをおすすめします。 時間が経ってから聞き直すことで、記憶がさらに強固になります。

必須単語は「気づいたら覚えている」状態を作る

ここまで「覚えようとしない」と言ってきましたが、初級の必須単語に関しては、もう少し補足が必要です。

挨拶・数字・基本動詞・代名詞といった、誰もが最初に通る必須単語は、聞き込み式の音声トラックに何度も繰り返し出てきます。 だから、特別に暗記しようとしなくても、200回のループ再生の中で気づいたら覚えてしまっている状態になります。

これが、このメソッドの核心です。

「覚えよう」と意識して机に向かうのではなく、何度も聴いているうちに、脳の方が勝手にインプットしてくれる。

聞いた瞬間は「今の何だっけ?」と忘れていても、何十回・何百回と耳に入るうちに、無意識のうちに脳に染み込んでいくのです。

ヒットソングのサビが、覚えようとしなくても口ずさめるようになるのと同じです。 意識して暗記する代わりに、出会う回数を増やす。 これだけで、必須単語は十分に身につきます。

ベトナム語を聞き込みで覚える3ステップ(1.リピート再生、2.睡眠を挟んだ反復、3.忘れた頃の再リスニング)をまとめたインフォグラフィック。効率的な記憶の定着フローを示しています。

聞き込みだけで、フレーズが口から出てくる瞬間がある

聞き込み式のすごいところは、ただ意味がわかるようになるだけではありません。

頭が変になるほど聞き込んでいると、ふとした瞬間に、そのフレーズが自分の口から出てくることがあります。

これは筆者自身、何度も体験してきました。 生活の中の何でもない瞬間に、聞き込んだフレーズがポロッと口から出てくる。 自分で意識して練習していないのに、です。

ヒットソングのサビを、無意識のうちに口ずさんでしまう感覚と同じです。 さらに脳は、十分に聞き込んだ音を「使える状態」で蓄えてくれます。 そして適切な場面に出会ったとき、自動的に再生してくれるのです。

ですから、ステップ1の段階では、「聞いて意味がわかれば十分」と思って取り組んでください。 口から出すための特別な練習は、まだ要りません。 聞き込みを徹底すれば、口から出る方は、後から勝手についてきます。

もちろん、聞いた音声をベトナム人になりきってモノマネする、覚えたフレーズを実際の会話で使ってみる、といったアウトプットの練習を加えれば、暗記の効果はさらに跳ね上がります。 ただし、それは絶対に必要な工程ではありません。 まずは、頭が変になるまで聞く。それだけでも、ベトナム語はあなたの口に染み込んでいきます。

200回聞きに使うベトナム語教材の選び方

聞き込み式に使う教材は、次の3つの条件を満たすものを選んでください。

  • 音声がついている(CDまたはダウンロード音源)
  • 会話文または短いフレーズ単位で音声が分かれている
  • 自分のレベルに合っている(難しすぎると挫折する)

筆者がおすすめするのは「ニューエクスプレスプラス ベトナム語」と「キクタン ベトナム語【入門編】」の2冊です。 どちらも音声付きで、1トラックが短く区切られているので、リピート再生に向いています。

教材の詳しい比較は、別記事の「ベトナム語のおすすめ本・テキスト」で40冊比較した結果を解説していますので、そちらを参考にしてください。

聞き込み式でつまずきやすいポイント

このステップで多くの人がつまずくポイントが3つあります。

ポイント1|流しっぱなしで実際には聞いていない

最大の落とし穴がこれです。 リピート再生はしているのに、頭は別のことを考えていて、耳が音を拾っていない。 これでは200回再生しても1回も聞いていないのと同じです。

家事中や通勤中に聞く場合でも、意識を音に向ける時間を作ってください。

ポイント2|音源を複数並行して使ってしまう

「いろんな教材を使った方が効率的」と考えて、複数の音源を並行して聞いてしまう人がいます。 これは逆効果です。

聞き込み式は「1つのトラックを徹底的に脳に刷り込む」ことに価値があるので、教材を増やすと薄まります。 1つのトラックを200回聞き終えて卒業するまでは、そのトラックだけに絞ってください。

ポイント3|カタカナ読みの罠

ベトナム語の音をカタカナに置き換えて覚えてしまうと、現地では通じない音になります。
最初に音声を聞き、その音を真似することから始めてください。
スクリプトを先に見てしまうと、頭の中でカタカナ変換が起きやすくなります。

発音の細かい修正方法については、別記事の「ベトナム語の発音のコツ」で詳しく解説しています。

【中級〜上級向け】ベトナム語の覚え方ステップ2|精読式で単語と「再会」させる

ベトナム語学習のステップ2「精読式」の解説図解。文章を辞書で丁寧に読み、頻出単語に何度も出会う(再会する)ことで語彙力を高めるプロセスを説明しています。

聞き込み式で基礎の必須単語が「考えずに意味がわかる」状態になったら、次は精読式に移行します。

精読式とは、ベトナム語の文章を辞書を引きながら丁寧に読み、頻出単語に何度も「再会」させて覚えていく方法です。

中級から先の単語は、文の中で出会わないと身につきません。

タイベオ先生

このステップは、筆者が中国語で確立し、ベトナム語に応用し、現在は少数民族のモン語でも実践している、3言語で実証された方法です。

聞き込み式だけでは突破できない「1000語の壁」

聞き込み式で基礎の1000語が口から出るようになっても、実生活のベトナム語にはまだ届きません。

先ほども少し触れましたが、筆者がハノイに移住した直後、まさにこの壁にぶつかりました。 日本で初級レベルの1000語ほどを覚えたつもりでいたのに、現地で会話してみると、わからない、聞き取れない言葉の連続だったのです。

ベトナム語は語彙が非常に豊富な言語で、表現の組み合わせも無限にあります。

タイベオ先生

実際にテキストで習うような簡単な表現で話しているベトナム人は、ほとんどいません。

この壁を超えるには、もう聞き込みだけでは足りません。 「読みながら、辞書を引きながら、文の中で単語と出会う」精読式に切り替える必要があります。

精読式の核心|「覚えなくていい、ただし徹底的に調べる」

精読式の核心は、一見すると逆説的に聞こえるかもしれません。

意味は調べる。ただし、調べた後すぐ忘れてもOK。

筆者は、ベトナム語の文章(中級〜上級レベルの雑誌)を、毎週のように読み続けてきました。 わからない単語が出てくるたびに辞書を引いて意味を確認しますが、「この単語を覚えよう」とは思わないようにしました。 覚えようと意識した瞬間に、勉強が苦行になるからです。

代わりに、「調べる」という行動だけ続けることに集中しました。 覚えるかどうかは、脳に任せる。 その代わり、出てきた単語は1つも飛ばさず、徹底的に調べる。

このルールに切り替えたとき、精読がしんどい作業から、続けられる作業に変わりました。

蛍光ペン+赤ペンの「2点マーキング法」

精読を続ける中で、筆者が確立した独自のやり方が2点マーキング法です。

具体的には、調べた単語に2箇所マークを付けます。

マーク1|雑誌(読みもの)側

  • 調べた単語に蛍光ペンで印をつける
  • すぐ下に極細の赤ペンで意味を書き込む
筆者が実際に読み込んでいるベトナム語の書籍「Lịch sử Hà Nội(ハノイの歴史)」の誌面。多くの単語がハイライトされ、学習の跡が残る精読の実践例。
最近読んでいる “Lịch sử Hà Nội”という本

マーク2|辞書側

  • 引いた単語に蛍光ペンで「訪問済み」のマークをつける
  • 1度引いた単語にはこの印が残る
長年使い込まれた越日辞典(ベトナム語辞書)の誌面。ほぼ全ての見出し語にマーカーや手書きの補足が書き込まれており、著者の徹底した学習の軌跡が伝わる写真。
このように、辞書を引きまくったので分厚い辞書のどのページにも過去に調べた痕跡が残っている。

なぜこの2点マーキングが効くかというと、次にその単語に「再会」したときに、一目で「前にも会った」とわかるからです。

読みもの側のマークは、その読みものを後日開いたときに「この単語、前に調べた」という記憶を視覚で呼び起こし、復習できます。 辞書側のマークは、ある単語を調べた時に「え、この単語、前にも調べてたんだ」という事実を見せてくれます。

ちなみにこの方法は、生成AIがない頃に私が使っていたアナログな方法です。個人的には紙の辞書をお勧めしますが(手に入りにくい)、今では私はアプリやWebの辞書、Gemini・Chat GPTを辞書がわりにしています。

タイベオ先生

なので最近は、読みもの側だけにマークをつけています。

しかし読みもの側にマークするだけでもかなり効果があります

人の名前と同じです。 一度会っただけの人の名前は忘れますが、何度も会ううちに自然と覚えられる。 2点マーキングは、その「何度も会った」という事実を、視覚で確認できる仕組みなのです。

タイベオ先生

一回調べても、どうせすぐに忘れるのだから、せめて過去に調べた痕跡を残しておくようにした、というところから始めたんです。

「再会」が起きるとベトナム語の単語は勝手に定着する

2点マーキングを続けていると、ある瞬間から面白いことが起きます。

頻出単語には、何度も「会う」のです。 ベトナム語には、ニュース・小説・会話で繰り返し出てくる頻出語があり、精読を続けるほど、これらの単語に何度も再会することになります。

数回再会するうちに、辞書を引かなくても意味が思い出せるようになります。 やがて、辞書を引く必要すらなくなる単語がどんどん増えていきます。 「わかる」単語が、雪だるま式に増えていく感覚です。

これは脳科学でいう段階的間隔想起法(spaced repetition)に近い原理です。 時間をおいて何度も同じ情報に触れることで、長期記憶に定着していく仕組みです。

筆者の場合、この理論を知っていたわけではなく、無意識のうちにやっていたことに後から気づきました。 中国語で同じ方法を試したとき、再現性があることを確信したのです。

筋トレ理論|頭から煙が出たらやめる

精読式は、最初のうちはものすごく疲れます。

知らない単語ばかりなので、闇雲に全部引くしかありません。 1ページ読むのに辞書を何十回も引くこともあります。 頭から煙が出るほど疲れます。

ここで大事なのが、筋トレ理論です。

筋トレと同じで、疲れ切ったらやめてください。 無理に続けても効率が落ちるだけで、脳が情報を受け付けなくなります。 網羅できる文章の量は、最初は少なくて構いません。

その代わり、やる範囲は徹底的にやる。 1ページなら1ページを、わからない単語を1つ残らず引く。 量より、徹底度を優先します。

そうしているうちに、徐々に「ベトナム語を読む筋肉」ができあがっていきます。 最初は1ページで疲弊していたのが、数ヶ月後には2ページ、3ページと読めるようになる。 1年もすれば、雑誌1冊を通読できる体力がつきます。

筋トレと同じで、日を置けば置くほど筋肉になっていきます。 そして気づけば、自分でも驚くほど語彙が増えていることに気づくはずです。

精読に使えるベトナム語の素材

精読式に使う素材は、自分のレベルと興味に合わせて選んでください。 「興味があるテーマ」を選ぶことが、続ける最大のコツです。

レベル別の素材例を挙げておきます。

中級レベルの素材

  • ベトナム語に翻訳された日本の絵本・漫画(ドラえもん、コナン、鬼滅など)
  • 子供向けのベトナム語の物語
ベトナム語版の漫画「ドラえもん」の見開きページ。日常会話で使われる自然な表現や語彙を学ぶための、おすすめの学習教材として紹介されています。
ベトナム旅行へ行かれる際は、ぜひ「ベトナム語版ドラえもん」を1冊買うことをお勧めします。「ドラえもん」は日常生活で使われる語彙の宝庫で、筆者は今でも知らない語彙が多くていろんな発見がたくさんあります。訳し方もセンスがあって面白いです。ぜひ日本語版と比較してみてください。

中級〜上級レベルの素材

  • ベトナム語のニュースサイト(VnExpressTuoi Treなど)
  • ベトナム語の新聞・雑誌・小説

上級レベルの素材

  • ベトナム語の契約書・社内メール(仕事で使う方向け)
  • ビジネス文書や専門書

辞書は、漢越語表記がついた紙の辞書が最強です。 意味だけでなく、漢字の構造から単語を理解できるので、定着が早まります。 ただ、高くて手に入りにくいのであまり購入は実際的ではありません。おすすめの辞書については、別記事の「【徹底比較】おすすめのベトナム語辞書は?」で詳しく比較しています。

なお、精読の素材として使える無料の単語帳(ベトナム人向け日本語教材のベトナム語対訳付き語彙表)の入手方法は、別記事「【無料】ベトナム語単語帳&効率的な覚え方」で詳しく解説しています。

このベトナム語の覚え方は、文法も構文も無意識にインプットする

ここまで「単語の覚え方」として精読式を解説してきましたが、実はこの方法には、もう1つ大きな効能があります。

単語だけでなく、文法・構文・前置詞・感嘆詞・慣用表現まで、無意識にインプットされるのです。

筆者自身これは、習って覚えたわけではありません。 精読を続けているうちに、勝手に身についていたものです。 このセクションでは、なぜそれが起きるのかを解説します。

単語は「単体」では覚えられない|文の中で生きる

そもそも「単語」と聞くと、多くの人は名詞・動詞・形容詞のような、単体で意味が成立する言葉を連想します。 しかし、言語は単体の単語だけで成り立っているわけではありません。

実際のベトナム語の文には、次のような要素がぎっしり詰まっています。

  • 前置詞(trên、dưới、trongなど。位置や関係を示す)
  • 接続詞(và、nhưng、thìなど。文と文をつなぐ)
  • 感嘆詞・終助詞(à、nhỉ、đấyなど。話し手の気持ちを表す)
  • 慣用表現(複数の単語が組み合わさって特定の意味を持つ)
  • 構文・語順(修飾語の位置、強調の仕方)

これらは、単語帳をめくっても出てきません。 出てきたとしても、単体で覚えても使い方がわからないのです。

ところが精読式で文章を読み続けると、これらすべてが文の中で実際に使われている形で目に入ります。 1度では身につきませんが、何度も同じパターンに出会ううちに、自然と「そういうものだ」と脳が帰納的に仕組みを理解していくのです。

初中級の文法知識はテキストを勉強しても身につきます。

文の中で何度も会うと、文法も自然にインプットされる

ベトナム語特有の文法ルールも、精読式で帰納的に身についていきます。

たとえばベトナム語では、修飾語が名詞の後ろに来ます(日本語と逆です)。 「赤い花」は hoa(花)+ đỏ(赤)の語順です。 これを文法書で覚えるよりも、何百回と「hoa đỏ」のような語順に出会う方が、はるかに早く定着します。

時制の表現(đã / đang / sẽ)、強調の表現、丁寧さの表現、すべて同じです。 「これは習ったから知っている」ではなく、「何度も見たから、こう言うものだと知っている」という状態になります。

これは、母語話者が文法を意識せずに正しい言葉を使えるのと同じ仕組みです。

日本人が「は」と「が」の違いを文法書で覚えていないのに使い分けられるのは、何百、何十万回も実際の文で見聞きしてきたからです。 精読式は、外国語学習でこれと同じ状態を作り出す方法なのです。

証拠|中級テキストを立ち読みすると、大体わかった

このメソッドの真の到達点を示す、筆者自身の体験があります。

筆者は、ベトナム語の中級コースを正式に学んだことがありません。 初級レベルのテキストを終えた後は、ずっと精読式で出版物を読み続けていた、ハノイでベトナム語しか通じないサバイバルな状況で生活していただけです。

ところがある帰国時に、書店でベトナム語の中級テキストが新しく出ていたので、パラパラ立ち読みしたところ、書かれていることの大体が、すでにわかっていたのです。 中級レベルの構文も、語彙も、慣用表現も、習ったことがないのに頭に入っていました。 もちろん、本をパラパラめくっていく中で「これは初めて深く知る情報だ」というものもありましたが、全体の枠組みはすでに自分の中にできていたのです。

精読を続けるうちに、中級レベルで教えられる文法事項が、無意識のうちにすべてインプットされていたのです。 これが、このメソッドの真の力です。

単語を覚えるためにやっていたつもりが、気づけばベトナム語そのものを覚えていた。 「ベトナム語の覚え方」というのは、単語の覚え方の枠を超えて、言語全体の覚え方になるのです。

タイベオ先生

これは、どの外国語学習にも当てはめられます。それを次に解説します。

「覚えようとしない暗記法」は3言語で実証済み

ここまで解説してきた「覚えようとしない暗記法」は、ベトナム語のためだけに編み出した方法ではありません。 筆者がこれまでに身につけた3つの言語、ベトナム語・中国語・モン語のすべてで実証された方法です。

言語が違っても、原理は同じでした。 だからこそ、このメソッドには再現性があると確信しています。

きっかけは「科学的な外国語学習法」という1冊の本

筆者は語学そのものは趣味と言えるほど好きでしたが、ベトナム語と中国語、さらには少数民族のモン語に関しては、ボランティア活動で人を助けるために必要になり、習得することにしたという経緯があります。

最初に取り組んだのがベトナム語でした。 このとき筆者は、「科学的な外国語学習法」という1冊の本を読み、意識的に「覚えようとしない」アプローチを取り入れて学習を始めました。 丸暗記ではなく、聞き込みと精読で語彙を増やしていくやり方です。

このメソッドは最初から手応えがありました。 発音の基礎が固まり、初級レベルの語彙と表現はしっかり身につきました。 ところが、その後ベトナム語を使う機会が一旦なくなり、自然と勉強する時間も減っていったのです。 挫折したわけではなく、生活の中での必要性が減ったという理由でした。

中国語でも、メソッドの再現性を確認できた

しばらくして、中国語のグループで人手が足りなくなり、その要請に応じて中国語の習得に取り組むことになりました。 当時の筆者は、以前にオンラインレッスンのモニターを受けたことがあり、発音の基礎と簡単な会話はできるレベルでした。 ただし、語彙や読み書きはこれからという段階です。

ここで筆者は、ベトナム語で学んだ「覚えようとしない暗記法」を、中国語の語彙習得に本格的に適用してみました。 聞き込みで音とフレーズを脳に刷り込み、精読で頻出単語に何度も再会させる。

すると、ベトナム語で得たのと同じ手応えが、中国語でも返ってきました。 頻出単語が辞書を引かなくてもわかるようになり、語彙が雪だるま式に増えていく。 この時は時短のため紙の辞書ではなく無料のオンライン辞書を使いましたが、メソッドの原理は完全に通用したのです。

ここで筆者は確信しました。 この方法は、ベトナム語固有のテクニックではなく、外国語学習の原理として再現性がある。

ベトナム語に戻ってきたら、もう一段伸びた

中国語である程度の手応えを得た後、もう一度ベトナム語に戻ってきました。

中国語で精読式の威力を実感していたので、ベトナム語でも本格的に精読を始めました。 雑誌や記事を辞書を引きながら丁寧に読み、頻出単語に再会させていく。

すると、初級レベルで止まっていたベトナム語が、もう一段伸びていくのを感じました。 中級レベル以上の語彙、慣用表現、文法構造が、習わないのに自然と身につく。

ハノイに移住して10年、現在ではローカル企業の人事部やチームとのコミュニケーションをすべてベトナム語で行い、業務上の翻訳もこなせるレベルまで来ましたが、その土台はすべて、この精読式で積み上げた語彙でできています。

教材がほぼないモン語でも、同じメソッドが通用した

そして筆者は2018年から、少数民族のモン語も独学しています。

モン語は、ベトナム北部の山岳地帯で話される言語で、テキストも音声教材もほとんどない言語です。 ベトナム語のように音声付きの市販教材を200回聞く、というやり方は、最初から使えませんでした。

それでも筆者は、入手できた「苗(フモン)語基礎1500語」という1冊だけで基礎を作りました。 さらに、もともとよく利用していたサイトに日本語とモン語の対訳が大量にあったことから、その対訳を見比べながら、検索でコロケーション(単語の組み合わせパターン)を拾って語彙を理解していったのです。

小口が黒くなるまで使い込まれたモン語の単語帳。マーカーや手書きのメモがびっしりと書き込まれており、未知の言語を習得するための徹底的な学習姿勢を示しています。
本の小口が真っ黒になるまで使い倒したモン語の単語帳。対応していない語彙も多いのでコロケーションで新語を理解した際は随時書き込んでいる。
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教材が乏しい言語でも、原理は同じでした。 「覚えようとせず、出会いを増やす」「文の中で何度も再会させる」ことを徹底すれば、語彙も文法も身についていきます。 ベトナム語と同じ手応えを、モン語でも確かに感じています。

ベトナム語ともまったく違う言語構造のモン語で、教材も限られた状況で、同じやり方で結果が出る。 3つの言語で同じ結果が出たということは、4つ目の言語、5つ目の言語にも応用できるということです。

つまり、これからベトナム語を始めるあなたにも、同じ結果が再現できるはずです。 特別な才能やセンスは必要ありません。ただ、覚えようとせずに、続ける。それだけで結果はついてきます。

ベトナム語の覚え方に関するよくある質問

最後にベトナム語の覚え方について、よくある疑問にお答えします。

1日にどれくらい時間をかければいいですか?

時間より「継続する日数」が大事です。 聞き込み式なら、すきま時間にリピート再生する形でよいので、1日合計30分程度で十分です。 精読式は集中力を要するので、最初は1日15〜30分から始めて、慣れてきたら1時間ほどに増やしてください。 1日に長時間やるよりも、毎日少しずつ続ける方が、脳に定着しやすいです。

単語帳アプリ(Anki・Memriseなど)は使った方がいいですか?

必須単語の暗記には便利ですが、メインの学習方法にはおすすめしません。 アプリでの暗記は文脈から切り離された単独の単語暗記になりがちで、中級以降の語彙習得には向きません。 あくまで補助として、初級の必須単語1000語を効率よく覚える目的で使うのがよいでしょう。 中級以降は精読式に切り替えてください。

何ヶ月くらいで効果が出ますか?

個人差はありますが、聞き込み式は1ヶ月続ければ「フレーズが口から自然に出る」感覚を体験できます。 精読式は最初の3ヶ月は「頭から煙が出るほど疲れる」段階ですが、半年も続ければ「辞書を引かなくてもわかる単語」が雪だるま式に増えていく手応えが得られます。 焦らず、毎日少しずつ積み上げてください。

生成AI(ChatGPTなど)を使った単語学習はどうですか?

生成AIは辞書としては非常に優秀で、コロケーションや微妙なニュアンスを質問するのに使えます。 ただし、生成AIだけで学習を回そうとすると、軸がぶれやすいので注意してください。 基本はテキスト1冊と精読を軸にして、わからないことが出てきたときに生成AIに質問する、という補助的な使い方がおすすめです。

漢越語を覚えると単語の習得が早くなるって本当ですか?

本当です。 ベトナム語の語彙の約70%は漢字由来の「漢越語」で、日本語の漢字熟語と意味がほぼ一致します。 漢越語の構造を理解すれば、未知のベトナム語単語でも漢字に置き換えるだけで意味が推測できるようになります。 漢越語の詳しい仕組みについては、別記事「一部のベトナム語は漢字で書ける!日本語ともよく似た漢越語の世界」で解説していますので、そちらを参照してください。

まとめ|ベトナム語の覚え方は「覚えようとしない」のが一番速い

ここまで、ベトナム語の覚え方を2段階に分けて解説してきました。

  • 初心者〜初級:聞き込み式で1つの音声トラックを200回聞き込む
  • 中級〜上級:精読式で文章を辞書を引きながら読み、頻出単語と「再会」させる

そしてこの方法のすごいところは、単語だけでなく、文法・構文・前置詞・感嘆詞・慣用表現まで、無意識のうちにインプットされることです。 精読を続けるうちに、習ってもいない中級レベルの文法事項が自然と身についていく。 これが「覚えようとしない暗記法」の真の力です。

筆者はこの方法を、ベトナム語・中国語・モン語の3つの言語で実証してきました。 言語が違っても、原理は同じ。 だから、これからベトナム語を始めるあなたにも、同じ結果が再現できるはずです。

最後に、このメソッドの本質をひと言でまとめます。

ベトナム語は、覚えようとせずに、続けるのが一番速い。

明日から、まずはテキストの1課分の音声を選んで、リピート再生を始めてみてください。 それが、ベトナム語の覚え方の最初の一歩です。

タイベオ先生

Hẹn gặp lại nhé!(また会いましょう!)

ベトナム語を体系的に学んでみようと思った方には、以下の記事でおすすめしている勉強方法を参考にしてみて下さい。

ベトナム語の初心者におすすめのテキストを以下の記事で紹介しています。テキスト選びの参考にして下さい。

「cảm ơn」とともに覚えたい、ベトナム旅行ですぐに使える、ベトナム語の挨拶フレーズは以下の記事で紹介しています。

ベトナム語を勉強するのにおすすめの本

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書名いちばんやさしい 使えるベトナム語入門ベトナム語レッスン初級1ニューエクスプラスベトナム語超入門ベトナム語
こんな人向け迷ったらこれ。初心者の最初の1冊文法を体系的にがっつり学びたい1冊で全体を把握したい語学経験者2025年最新!日本でベトナム人と話すきっかけがほしい
音声DL(ゆっくり+普通の2段階)CD付き(DL)CD+アプリ(速度調整可)DL
文法の深さ基礎レベルかなり深い広く浅く最小限
会話の実用性基本的弱い(別で補う必要あり)自然な表現が多い入門60フレーズに特化
カタカナあり(センスは良い)なしあり(全振り)あり
南部方言なしなしなし付録あり
価格¥2,200¥3,300(初級1のみ)¥2,860¥2,200
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効果的なベトナム語の覚え方「覚えようとしない暗記法」の解説図解。脳が自然に情報を吸収する仕組みをイメージしたアイコンと説明文。

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