帰任が決まると、引越し業者の手配、役所への届け出、航空券の予約と、やることは山積みです。そんな中で「ベトナムの銀行口座」に気が回る人は、あまりいません。
実は、ベトナムの銀行口座はビザの期限が切れた翌営業日から自動ロックされます。
そしていったんロックされた口座を、帰国後に日本から解除する手段は原則として存在しません。口座に残った残高は「動かせないまま」になります。
この記事では、2015年からハノイに在住している筆者が、帰国前に必ず終わらせるべき銀行・SIM・社会保険の手続きを解説します。
タイベオ先生帰任が決まって荷物の整理は始めているけど、口座の手続きは後回しにしている、という方の参考にしていただければ嬉しいです。
- 帰国後に口座の残高が「凍結したまま手が届かない」状態になる理由
- 口座残高を日本に送金する「最終リミット」の考え方
- 帰国前に終わらせるべき4つの手続きと、それぞれの期日感
- 委任状(POA)でどこまで代理人に任せられるか
- 社会保険一時金の申請で掛け金が戻ってくる可能性

帰国後にベトナム銀行口座がロックされると解除できない
銀行口座のロックは、ベトナムに引き続き在住する方にとっては「更新後に解除できる問題」です。
しかし帰任者にとっては、帰国後に解除する手段がほとんど存在しないという点で、まったく性格が異なります。なぜ帰国後に詰むのかを、順番に見ていきます。
ビザ失効=口座ロック:帰任者の場合は「帰国後に解除する術がない」
ベトナムの銀行のシステムは、登録されている本人確認書類の有効期限を自動監視しています。ビザまたはTRCの期限が切れた翌営業日に、送金・引き出し・カード決済・モバイルバンキングを含む全チャネルが自動ロックされます。
問題は、ロックを解除するための手続きです。解除には「有効な在留書類の原本」を持って銀行窓口に対面で出向き、行員によるスキャンを受ける必要があります。電話・メール・オンラインでの解除は、どの銀行でも対応していません。
帰国後のあなたは日本にいます。VietinBankのコールセンターに電話しても、「お近くの支店にお越しください」と言われるだけです。ベトナムへの再訪問が組めない限り、リモートで口座を動かす方法は事実上ありません。

帰国後に残高が残ったままになるとどうなるか
没収はされません。
ロックはあくまで「一時停止」であり、口座の残高は保護されています。ただし、アクセスできないまま放置した場合に起きることを理解しておく必要があります。
ベトナムの銀行では、一定期間取引がない口座を「休眠口座」として管理する規定があります。
休眠口座に移行すると、通常の窓口手続きとは別のより複雑な復活手続きが必要になります。
さらに、銀行や口座の種類によっては、長期の休眠状態が続くと口座管理手数料が引かれ、残高が少しずつ減っていくケースもあります。
「お金が消えるわけではない」という安心感はありますが、「帰国後に手を出せない資産」として封印されるリスクは現実に存在します。残高が少額であれば無視できますが、数ヶ月分の給与が口座に残っている場合は、帰国前に必ず対処しておく必要があります。
委任状(POA)があれば帰国後でも代理人に動いてもらえるか
POA(Power of Attorney)とは、本人の代わりに代理人が手続きを行うことを認める委任状です。帰国後に口座を動かす最後の手段として、帰国前にPOAを作成しておくという方法があります。
- 口座残高の引き出し・送金(銀行によって対応範囲が異なる)
- 口座の閉鎖手続きの一部
- 生体認証が必要な操作(新端末の銀行アプリ登録など)
- 本人確認書類の更新(KYC更新は本人が窓口に来ることが前提)
- ロックされた口座の解除(解除には本人の有効書類が必要)
注意点が二つあります。
ひとつは、POAは公証(ノタリー)を経て銀行に提出する必要があり、書類の準備に数日かかる場合があること。
もうひとつは、POAの作成・提出もビザが有効なうちに行う必要があること。ビザが切れた後でPOAを提出しようとしても、口座自体がロックされているため書類として機能しません。
POAは「帰国後の保険」として有効ですが、残高の送金を代理人任せにできるかどうかは銀行ごとに異なります。
頼れる現地の知人や弁護士がいる場合は有効な選択肢になりますが、POAに頼らずに済むよう、帰国前に残高を動かしておくことが最善です。
ベトナムから日本へ帰国前に終わらせる4つの必須手続き
それぞれの手続きには「ビザが有効なうちに必ず済ませるもの」と「多少余裕があるもの」があります。以下では4つの手続きを、優先度の高い順に解説します。帰国の日程が決まったら、まずこのリストを見ながら逆算してください。
【帰国前に済ませる4つの手続きと優先度】
- 口座残高の日本への送金(最優先:帰国1〜2ヶ月前)
- 銀行口座の残置か閉鎖の決定(送金後・帰国14日前頃まで)
- 社会保険一時金の返還申請(帰国2ヶ月前着手)
- SIMカードの解約手続き(帰国1〜2週間前)

口座残高の日本への送金:ビザが有効なうちに動かすのが鉄則
これが4つの中で最も優先度が高い手続きです。口座がロックされる前、ビザが有効なうちに残高を日本の口座へ送金しておくことが最善策です。
送金の手続きはどの主要行でも銀行窓口で行えます。
持参するものは
- パスポート・ビザ(またはTRC)
- 送金先の日本の銀行口座情報(銀行名・支店名・口座番号・SWIFT/BICコード)
です。
手数料は銀行と金額によって異なりますが、数十ドル程度が相場です。
送金処理は通常2〜5営業日で日本側の口座に着金します。
なお、ベトナムから日本への送金には、国家銀行の外貨管理規制が適用されます。
就労ビザ保持者が給与・合法収入の範囲内で送金する場合は基本的に制限はありませんが、大口の送金には源泉の証明(給与明細・雇用契約書など)の提示を求められる場合があります。
帰国の1〜2ヶ月前には着手してください。
タイベオ先生帰国直前はバタバタして時間が取れない上、ギリギリの時期にビザが切れてしまうと送金できなくなります。
帰国までの生活費として数週間分だけ残し、それ以外は早めに送金しておくことを強くお勧めします。
銀行口座の「残置か閉鎖か」:判断基準と手続き
送金が完了したら、口座そのものをどうするかを決める必要があります。
閉鎖を選ぶ場合は、残高をゼロにした上で窓口で閉鎖手続きを行います。
手続き自体は比較的シンプルで、パスポートとキャッシュカード・通帳を持参して窓口に申し出ればほとんどの場合その日に完了します。
タイベオ先生完全帰国でベトナムに戻る予定がない場合は、閉鎖がシンプルで安全です。
残置(口座を残す)を選ぶ場合の判断基準は一つです。
「ベトナムに再訪問できる見込みがあるか」です。
近い将来ベトナムに出張や旅行で来られる場合は、口座を残しておくことで再訪時にスムーズに使えます。
ただし、ビザが切れた時点で口座はロックされることを前提に計画してください。置いておく場合でも、残高は最小限にしておくことをお勧めします。
社会保険一時金の返還申請:申請すれば掛け金が戻る可能性がある
ベトナムで就労ビザを持って働いていた場合、社会保険(Bảo hiểm xã hội)への加入が義務づけられており、毎月の給与から掛け金が天引きされていた方も多いはずです。
外国人労働者がベトナムを完全帰国する際には、ベトナム社会保険法に基づき、「一時金」として掛け金相当分の払い戻しを受けられる制度があります。
支給額は加入月数と掛け金の金額によって異なりますが、数ヶ月分の掛け金に相当する金額が戻ってくるケースも珍しくありません。
申請先は勤務地の省・市が管轄する社会保険事務所(BHXH)、
必要書類は、労働契約書・社会保険手帳(レッドブック)・パスポート・退職証明書類などです。
処理に30〜60日かかるため、帰国の2ヶ月前には着手することをお勧めします。払い戻しは指定した銀行口座への振込となるため、送金手続きとのタイミングも考慮してください。
会社の人事担当・会計担当に「社会保険の一時金を申請したい」と伝えれば、必要な書類を準備してもらえる場合がほとんどです。やらないまま帰国すると、この権利は消えてしまいます。
SIMカードの解約手続き:放置すると電話番号が別人に渡るリスクがある
SIMカードの解約を忘れたまま帰国するケースは意外に多いです。
月額プランの場合は帰国後も請求が続く可能性があるほか、より重要なリスクとして「電話番号の再割り当て」があります。
ベトナムのキャリアは、一定期間使われなかった番号を他の契約者へ再割り当てします。
あなたの旧番号を使い始めた人が、あなたのベトナム銀行アカウントに紐づいたSMS-OTPを受信できてしまう状態が理論上生じます。
ロックされていても、口座番号と暗証番号さえわかれば悪用される余地があるため、電話番号を放置したままにするのはセキュリティ上も望ましくありません。
解約手続きはキャリアの店舗窓口(ViettelであればViettelショップ)でパスポートを持参して行います。
手続きは通常10〜15分程度で完了します。帰国前日でも間に合いますが、余裕を持って帰国の1〜2週間前に済ませておくと安心です。
VietinBankとBIDV:帰任者向け手続きの比較
VietinBankとBIDVは、ベトナム在住の外国人が口座を持つ代表的な国営銀行です。
帰任に際した送金・閉鎖の流れはおおむね共通していますが、細部で異なる点があります。帰国前に確認しておきたいポイントをまとめます。
VietinBank:帰国前の送金と口座閉鎖の手順
窓口では「Chuyển tiền quốc tế(国際送金)」と伝えると担当者がすぐに書類を案内してくれます。
ハノイ・ホーチミン市内の主要支店は外国人対応の経験が豊富で、英語で対応してもらえる窓口もあります。
口座の閉鎖は残高をゼロにした上で窓口で「Tất toán tài khoản(口座解約)」と申し出ます。
パスポート・キャッシュカード・通帳(ある場合)を持参すれば、ほとんどの場合その日に完了します。残っている小口残高はその場で現金または送金で受け取れます。
BIDV:送金・閉鎖の手続きと注意点
BIDVもVietinBankと同様にSWIFT送金に対応しており、窓口での手続きの流れはほぼ同じです。
ただし、BIDVは外国人顧客への書類審査が厳格な傾向があり、大口送金の際に書類の不備があると手続きが止まるケースが報告されています。
送金前に支店の担当者に「帰任前の送金について事前に確認したい」と伝えると、必要書類のリストを案内してもらえます。
特に日本法人への赴任前払い扱いなど、雇用関係が複雑な場合は、会社の経理・人事に同席してもらうことをお勧めします。
口座閉鎖の手続き自体はVietinBankと同様で、パスポートを持参して窓口で申し出れば対応してもらえます。
委任状(POA)の作成方法と活用できる範囲
帰国後に口座が動かせなくなる前に代理人を立てておきたい場合、POAの作成と銀行への提出を帰国前に済ませておく必要があります。
POAの作成はベトナム国内の公証局(Phòng Công chứng)で行います。
公証局でスタッフに「ủy quyền ngân hàng(銀行取引の委任状)」と伝え、必要な書類を揃えれば手続きができます。公証費用は書類の内容にもよりますが、数十万VND程度が目安です。
- 委任者の氏名・パスポート番号・住所
- 受任者の氏名・身分証明書情報
- 委任する手続きの範囲(送金・引き出し・閉鎖など)と期限
- 対象の口座情報
作成したPOAは原本を銀行に提出します。
受任者(代理人)が銀行に出向く際は、POAの原本と受任者自身の本人確認書類を持参します。
ただし、どこまでPOAで対応できるかは銀行ごとに異なるため、提出前に支店で事前確認をすることを強くお勧めします。
受任者の候補としては、ベトナムに残る同僚・知人、または現地の法律事務所が現実的です。弁護士に依頼する場合は費用が別途かかりますが、手続きの確実性が高まります。
POAの作成・提出もビザが有効なうちに行う必要があります。
よくある質問
まとめ:帰国の「Dデー」が決まったら60日前から逆算する
ベトナムから帰国することは、日本への移動ではなく「ベトナムでの法的ステータスの終了」を意味します。ビザが切れた瞬間に、あなたの銀行口座・電話番号・社会保険の権利に時計が止まります。
以下の逆算タイムラインを参考にしてください。
- 帰国60日前:社会保険一時金の申請を会社の人事に相談・開始
- 帰国30日前:銀行窓口で残高の海外送金を開始。POAが必要な場合は公証局へ
- 帰国14日前:口座の閉鎖手続き(残高がゼロであることを確認)
- 帰国1〜2週間前:SIMカードを解約
- 帰国当日:残高ゼロ・SIM解約・社会保険申請中を最終確認

引き続きベトナムに在住しながらビザ更新をする方向けの手続きについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

シンチャオ!また次の記事でお会いしましょう
タイベオ先生帰国前の手続きは、ビザが有効なうちにしかできないものばかりです。荷物の整理より先に、この記事のチェックリストを一度通しで確認してみてください。





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